「振られちゃった」
幸村君は私にそういって、檸檬の皮をかじった時の顔で私の名前を呼んだ。
うん、知っているよ。だって幸村君があの子に告白をされた日、私失恋をしたのだから。
「……幸村を振るなんて、勿体ない!」
友人としてのあたりさわりのない台詞を返すと「そういってくれるのは君だけだよ」なんて彼は言う。何さそれ。そんなわけないじゃない。幸村の彼女になりたい女子なんていっぱいいるんだよ。かくいう私もその一人で、自己嫌悪で泣きたくなる。
数年前まで、貴方の隣は私の特等席だった。
中学生の甘くて淡い初恋は、卒業と同時に自然消滅。あの頃の幸村はテニスに一生懸命で、私はそれを支えてあげられるほど大人ではなかった。
数年後、大学で再開した彼に運命を感じた。一度だって貴方の事を忘れた事なんてなかったから。だけど時間は残酷で、私には私の。彼には彼の相手がいた。
「あーあ、ほんと、やになっちゃうよ」
「その台詞、私が元カレに振られたときに言った台詞」
「あ、ばれちゃった?」
高校から付き合っていた彼氏は、別の大学へと進学して、そしてあっという間にそこで彼女が出来てしまったらしい。
私なんてその程度の女なのだ。彼氏に振られて落ち込んでいた当時の私を何度も励ましてくれた幸村は、確かにその時にこう言った。
「友人をほっとけるわけないだろう」
綺麗な笑顔で、とっておきの壁。
幸村君にとっての私は、いつまで「友人」でいればよいのだろうか。そのラインを飛び越えたいのに、いつだって臆病が邪魔をして、貴方に手を伸ばす前に貴方は別のあの子と笑っている。
何回めかの失恋をした後に、この居場所を壊す方が怖くなった。
「で?今日の夜あいてる?」
「幸村の奢りなら飲みに行ってあげる」
「えー、俺がへこんでる方なのに?」
へらり、と笑ったその顔でさえ好きだった。
ねぇ幸村、私ね、幸村が笑ってくれるのであればこの関係も悪くないって思えてきたんだよ。貴方の恋人になることが出来たらそれはそれで素敵なことだけど、貴方に思いを伝えて、その笑顔を見ることができなくなる方がつらいんだよ。
「……いつもありがとうね」
幸村は突然そんなことを口にした。
「何さ、突然」
「いい意味でも悪い意味でも、俺は君がいないと駄目みたい」
友人として向けられたその台詞に、ときめいてはいけないってわかっているのに。
「な、にさそれ。変なのー」
「変じゃないよ。現に、……振られたじゃないか」
その言い方に、思わずカチンと来て、「何それ」と声にしたのと、彼が私の頬を緩くつまんだのは同じタイミングだった。
「……君のことばっか考えてた。だから振られちゃった」
頬をつままれた私は、彼から目が逸らせない。反らしたいのに、勘違いしてしまいそうなのに。
「こんな言い方狡いってわかってるけど、言うね」
綺麗な顔した彼が、照れ臭そうに笑う。
「友人をやめて、俺の恋人になってくれませんか」

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