「俺には似合わないか?」
彼はそんなことを私に言った。
生徒会室の鍵を受け取った後、職員室を出たら其処に柳がいた。
成績優秀、容姿端麗、そして私の隣の席の男の子。今時の男子とは全く違って、落ち着いていて大人びている彼に恋に落ちた女子は数知れず。私もその中の一人。
そんな彼が持っているのは、可愛らしいぬいぐるみ。
「そんなことない!」
慌てて答えた私はきっと彼の目から見たら、ウソをついていることなんて一目瞭然なんだろう。
似合わない。可愛らしいつぶらな瞳の大型なぬいぐるみ。
「あ、もしかして、」
「お察しの通りさ。このぬいぐるみは文化祭の生徒会の出し物の景品だ」
「柳の、」
「私物の分けないだろう。知り合いの物だ」
透明のビニール袋に包まれたそれは、きっとどこかのゲームセンターからやってきたのであろう。
生徒会室までの道のりを、大きなぬいぐるみを持った彼と、書類を持った私が歩く。その状況がなんだかおかしくて、なんだかくすぐったい。隣を歩くだけで、身長の違いを感じて、それだけでむず痒い。
「この後部活?」
「嗚呼」
「この時期は暑そうだね……汗だくなりそう。あ、でも柳って汗かくの?」
「俺の事を何だと思っている」
呆れたような顔をした後で、すぐに彼は優しい顔をした。
まだお話ししていたいな、なんて思えば思うほどそれは叶わないもので、あっという間に生徒会室に到着だ。
「柳、……あのさ」
ぬいぐるみを棚に置いた彼がこちらを向いた。綺麗な顔だな、なんてバカみたいなことを考える頭の片隅に「好き」の文字がよぎった。
「ん?」
よぎったけど、言えない。言えないよ。
「……、なんでも、無い」
「やけに歯切れが悪い物言いだな」
彼は苦笑した。ああ、やだな。その笑顔でさえ好きなんだもん。
「柳、そろそろ、部活の時間だよ」
「ああ、もうそんな時間か」
残りは本当に任せてしまっていいのか、と聞いてくれる優しい彼の声。
大丈夫だよ。後はカギを先生に返すだけだもの。だから。
「部活頑張って」
彼が私に背を向けた時に、その鞄についているチャームが揺れた。その銀色があの子とお揃いだということに気づいてしまったあの日から、私は思っていることさえ正直に言えなくなってしまったんだよ。
彼の背中が階段の下に消えた。
部活が終わった後、あの子と一緒に帰るのかな。其れとも家に帰って電話するのかな。
想像したくない事ばかり考えてしまう私の脳内にグッドバイ。
「……やだな」
あれれ、職員室まで、こんなに遠かったっけ。

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