私が消えればいいんだろうか。疑問なんかじゃない。これは決定事項であって、恐ろしいほど明確なこと。
黄瀬君のそばにいる限り、目の敵にされるのは分かってはいた。だけど、いざそういう場面になった時にどうやって対応すべきなのかも、どう反抗すべきなのかも分からない。帰り道に、よく知らない男の人に囲まれて、あっという間に風景が変わっていって、気がつけば縛り付けられた柱。そして身体中から放たれる芳香は、ガソリンスタンドのそれと同じだった。下卑た笑みを浮かべた彼らは私を容赦無く蹴り、殴り、虫けらのように踏み潰した。痛い。だけどまだ身体に性的乱暴を働かれていないだけマシなのだろうか。

現実逃避するように目を閉じた瞬間、愛おしい人が目に浮かんだ。

バスケをしている彼の横顔が何より好きだった。私の名前を呼ぶその照れた顔が、誰よりも愛らしかった。だから、黄瀬君のことを想っているが故の痛みだというなら。


「こんな痛みなんて……平気、だよ」


何処かで何かが失われる音がする。痛々しくも浮き出す血管に自分の命の危機を感じながら、呼吸を吐き出した瞬間の肺の痛みに泣きそうになる。
だけど、きっと私は消えても幸せなの。だって、この痛みは、彼を想っていたという証なのだから。

揺らめく紅い炎が目の前で揺れる。近づく、その時間。


「ありがとう。ごめんね、好きだよ」


黄瀬君。
その名前を喉の奥で呟いたのはきっとその名前が尊すぎるから。
そうして息を吐きながら、私は赤い炎に包まれた。


「栞っーー!!!!」


身体が燃えて行く中。
遠くで、誰かが、私の名前を叫んだ気がした。



ーーーーーー

多分黄瀬目線も書きます。

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