彼女のことを誰かはこの世に存在するどんなものより美しいと囃し立てた。
彼女のことを誰かは気味が悪いと嫌悪に満ちた目で憎んだ。
私はどちらとも思わずその横顔に見とれている。勝ちに執着する彼女はなんて美しいだろうか。それでいてなんと脆い。


「……私が怖くないの?」
『鋏なんてもの使うから?』
「……会長さんは怖いものなんてないのね』


綺麗に笑う彼女の赤い髪の毛に空中を漂っていた空気が触れた。彼女は不意に「さびしいな」なんてつぶやいたものだから可笑しくて小さく笑ってしまった。常に上を向く彼女でも寂しいなんていう感情があるものか、と。


『赤司さんはさ、孤独なの?』
「どうだろうね」
『私は孤独だよ』
「へえ、たとえば?」
『生徒会長っていう区切りをつけてみんな私を遠ざけるの」
「そう」


どこか不敵に笑う彼女は私のそばまでくると妖艶に笑った。真紅の髪は彼女の体に流れる色とどちらがきれいなのだろうか。「約束してあげる」なんてつぶやいた彼女は私に小指を見せた。「栞を孤独にしない。その代り私を孤独にしないで」なんてどこの宗教団体かなあと感じさせる口調で彼女は私の指にそれを絡める。


「指切りげんまん」
『……嘘ついたらなにするの?』
「私の両目をくりぬいてあげる」
『……悪くないね』
「悪趣味」


絡めあった小指が愛おしいと思った。その指を力任せにへし折ったら彼女はどんな顔をするのかな。そんな歪んだ思考が一瞬駆け巡って一瞬後悔して、一瞬で我に返った。この少女ともしも二人だけしか知らない契りを交わすことができたらどれほどに幸せなんだろうか。ありもしない未来を思って小さく笑う。所詮守られることのない約束なのに、こんなに胸が熱い。
私はこの少女のことがきっと恋愛的に好きだ。そんなことを言ってしまってはこの全知全能のようでいて無知な少女を困惑させてしまうことはわかっていた。だからこそ、私は口をつぐむ。


「ちゃんと覚えていてね」


含んだように笑う彼女に「そうね」なんて返した。臆病な私を笑ってよ。ぎたぎたに痛めつけられたのならば、この想いは消えるのでしょうか。
いいえ、そんなことはないの。だって私、痛いの嫌いだもの。
指切った、の合図で離れる小指に明らかに欲情してしまった私の心臓を誰か食べてはくれないだろうか。

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -