「俺の彼女がかわいくてつらい」
森山と一緒に参考書を見に町へ繰り出した先で、高尾君が珍しく一人で歩いていたものだから声をかけた。そのまま別れるのもなんだから、とお洒落なカフェ席で三人で着席したとたんにこれだ。
「……い、一番好きな顔は?」
「俺の隣で寝てるときの亜衣子の顔」
「げほっ」
「ちょ、森山大丈夫?」
何故かむせだした森山の背中をとんとんと叩いてやりながら、目の前の憂鬱な顔した高尾君に目をやった。嗚呼これあれだ。真剣に悩んでいるんだろうけど、惚気ってやつだ。
「まぁ、どの表情も大好きなんすけどね」
前言撤回。純度100%の惚気だ。
「……そっか、まあ、可愛いのは同意するけど」
「ね、ほんとに。俺以外の男の視界に入れるのとかマジで勘弁なんすよね」
そういえば先日、亜衣子が私の家に逃げ込んできたときに、彼にそんなことを言われたと聞いた気もする。その時は「大変だねぇ」なんて言いつつも彼女の頭を撫でてやったものだが、今となってはもう少し強めに撫でてあげておけばよかったかもしれない。この男、亜衣子の事大好き過ぎない?いやいいのだけど。
「高尾君さ、こう、なんだろ。感情駄々洩れだね」
あの子がどんだけ愛されているかは分かったけど、聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。ストローでジュースを吸い込んだ彼がちらりとこちらを見た。
「森山さん程辛抱強くないんで」
「高尾君」
「うわぉ、そんな顔でこっち見ないでくださいよ森山さん」
高尾君はニコニコ笑って、森山は彼を睨み付けている。
「……なんで森山そんなににらんでるのさ、高尾君に秘密でも握られてんの?」
「い、いや、なんでもないさ」
変な様子の森山を見ていたかと思えば、高尾君は携帯に保存された彼女の写真を見ながら優しい目をしている。それだけで彼女の事をどれだけ好きかが分かって、私の方がくすぐったくなった。
「まぁ、あの子を幸せにしてくれるなら、なんでもいいや」
「ぶはっ、言い方が辛らつ」
彼が元からこんなに笑顔が似合う性格なのか、それともあの子が彼をますます笑顔にさせているのか。
私にはそれは分からなかったけど、それでもお似合いな二人だな、なんて。




「先輩はさ、なんていうか、可愛いと思いますよ」
「っ、げほ、」
「ちょ、大丈夫っすか?」
突然そんな事を言う口がうまい年下の男に、思わず液体が変なところに入り込んだ。せき込む私の背中をさする森山の優しさを感じつつ、目の前の男に目をやった。高尾君は先ほどと同じ顔して「モテモテだし」なんて付け加えた。
「高尾君ってあれだね、クラスの人気者って感じ」
「うっわ、なんすかそれっ。褒めてます?」
褒めてる褒めてる、と二回繰り返す私と、隣で苦笑する森山。


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