遠くから見ながら相変わらずもてもてだなあ、なんてぼんやり思った。黄瀬がもてるのなんて今に始まったことではないけど、それでもなんか、むしゃくしゃするのは毎度のこと。ファンの子たちに今更ヤキモチなんて焼いてもなんにもならないのに、馬鹿だなぁ私。そしてそれを素直に言えないのも、馬鹿なところの、要因だけど。黄瀬のファンが増えていくのは、彼の良さを知ってくれたってことだから嬉しいのだけど、その分苦しい。


『……で、なんであんたは何がしたいわけ』
「なんつうか、あー、お前の太もも最高」
『それはありがとう変態馬鹿峰』


そして、どうしてこの男は私の太ももで寝てるんだろうか、とぼんやり考える。いや、考えるまでもないけど。って、さりげなく太ももを撫でだした手を思いっきりつまんでやると、彼は不機嫌そうに「痛え」とだけ零した。それにしても、一応私は、あんたの友達の彼女なんですがこの男は分かってんのかなってくらいのスキンシップ。それはもう、日常茶飯事で、今更とくに何も言うつもりないけど。
そんなことを考えながら、頭をどける気のない大男の鼻の頭でもつねってやろうかと思った時。
がつりと音がなりそうなくらいの衝撃が背中からかかったと感じたのと、肩口から聞き慣れた声がしたのはほぼ同時だった。


「何してるんすか」
『黄瀬? さっきまであっちいなかった? ファンの子はもういいの?』
「……なんで?」
『いや、なんでって、あんたねぇ……』
「なんで、青峰っちが膝で寝てんの?」
『いつものことじゃん。ほら、ファンの子たちが』
「俺の彼女は栞っちだけっす」


拗ねた風に言うのが無償に可愛くて、こぼれてしまった笑みに彼の何かが触れたらしく、ぐい、と体を引かれた。反抗する声を出すまでもなく彼に倒れこむ形になって、次の時には目の前に整った顔立ち。


『っ、ちょっ……き、っ、んむっ』


抗議を聞くつもりはないらしい彼の唇が私を食い尽くしそうな程に入り込む。丁寧に歯列をなぞられたままで、背中をなぞられる。「ひぃっ」なんて声が漏れるのを抑えられずにいると、面白いものを見るかのような目をした青峰が見えた。やばい、意識をした途端に恥ずかしくなってきて、急いで離れようと、黄瀬の胸を叩く。だけど、それを阻むようによけいに深くなるキス。


『っひ、あ……』
「エロいっすね……」


そんな言葉が聞こえた矢先、わざとらしくリップ音をたてて彼は唇から離れた。顔が恐ろしい程に熱くて溶けてしまうかと思いながらも、そのまま俯く。


「こんな顔させたいのは、栞だけっすよ」



悪戯に笑う彼は私の耳たぶを指で弄りながら「続きは俺の部屋で」なんて低い声で囁いた。

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