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数日後、幸村君に今日の練習のメニューの調整を聞きに行ったら、我らが部長は、すごい数の女の子に囲まれていました。
相変わらず綺麗な笑顔だけど、あれはちょっと困ってる顔だな、って気づける自分がなんだか誇らしいというか、少しばかりの優越感を抱いてしまう。長い間一緒にいると、選手の表情の変化まで分かるんだから、伊達に三年間もマネをしてきてないな。
だけど、廊下から見る彼が、遠い存在に思えて来るのは、……気のせいなのかな。彼の周りに可愛らしい女の子がたくさんいることはなんだか心苦しくて、私は教室を離れようとした。雑音に、混じった音。


「ねぇ、じゃー、幸村君はどんな子が好きなのー?」
「私も聞きたーい」


ぴくりと身体が、三つ編みが跳ねる。怖いくらいに音をたてる心臓。

盗み聞きなんてよく無いって分かっているのに、彼がなんて答えるのかが酷く気になる。
もしここで、自分が欲しい答えじゃないものを聞いてしまったらどうしようか、という不安もある。例えば彼が実名を出してしまったら、顔を合わせただけで泣きそうになるかもしれない。

だけど知りたい。
ううん。知りたくない。

心の葛藤が最上級になって爆発してしまうんじゃないかって思った時に、不意に聞こえた声。私の視界に入り込んできた蒼い色。白い肌と綺麗な微笑み。


「……長い髪の子が好き、だな」


三つ編みが、ふわりと靡く。
その瞳が此方に向いている。たとえもしも、私に言われていることじゃないとしても、それが嬉しくて。
だけど、私に向かって唇で「山野、今日の練習のことかな?」と呟いたものだから、たったそんなことなのに私の中で何かが幸せの音を鳴らした。
別に髪の長い子なんてこの学校にたくさんいる。幸村君が私のことを恋愛対象として見てないことも知っている。
でも、私が彼の好みのうちに入ることを許されていることだけで、嬉しい。
たとえその恋は一生報われないものだとしても、幸村君を好きでいれるんだよ、とそう誰かに言われているみたいで、頬が緩む。
此方にきてくれた彼は心無しか嬉しそうに見える。


『これ、メニューです』
「うん。ありがと山野。いつも苦労かけるね」
『う、ううん。マネージャーだから当たり前だよ』
「いや、……本当に、ありがとう」


とくん、と。そんな安っぽい音が心臓を駆け巡って私を惑わせるから、泣きそうになる。

ねえ、幸村君。
他愛ないそんな一瞬で私はまた君を好きになってしまうんだよ。



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