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確かに彼は従兄弟で、不意に遊びに来ることなんてしょっちゅうだけど、驚くものは驚く。大体彼が住んでいるのは東京で、私が住んでいるのは神奈川。確かに交通機関を使えばこれない距離ではないのだけれども。そんな私の前で周助は「君に会いたくて遊びにきちゃった」なんてさらりと言いながら私の頬に手を伸ばした。瞬間的なことに体を跳ねさせると彼は痛そうに眉をひそめる。「また、なの?」と言う周助は私が嫌がらせを受けているのを知っている唯一の男の子かもしれない。力なく頷きながら『仕方ないじゃん?』って笑って見せるけど彼は笑い返してくれなくて何も言わないままで彼は私の頭を優しく撫でてくれた。

ごめんね、ありがとう。だけどね。


『私は、逃げたくないの』


嫌がらせをうけたからマネージャーを辞める、そんな女になりたくない。
そう言うと周助はそっと瞳を開いた。


「僕の手の届くところにいてくれたら、いつだって助けるのに」
『別に、叩かれたくらいで周助は過保護だって』
「……有沙は有沙のことを軽く考えすぎだ」
『……、だ、だって、私、それでも、マネージャーがしたい、んだもん』
「……まったく……」


頑固なところは小さい頃から変わらないよね。
そんなことをぼやきながら私の手を握り締めて周助は苦笑した。


『ごめんね、周助。ありがと』
「……まあ、いざとなったら無理やりでも立海から奪うけどね」
『わー、周助お得意の黒魔術だね』
「こら、怒るよ?」


そうやって二人で笑いあって。
大丈夫、まだ私は一人じゃないから笑える。
そう感じられるだけで幸せだから。
確かに、周助の言うとおり私のことを軽く考えすぎなのかもしれない。
だけど、かまわない。自分がいくら傷ついても私が仕事をすることで喜んでくれる人がいる。そんな人がたった一人でもいるだけでも私は頑張れるの。
それに。それに。

彼は、幸村君は、誰よりも強いから。
そんな彼に恋をした私も彼のように強くなりたいと望んだから。だから、弱音は吐かない。どんな仕打ちを受けても耐えられるの。好きだからこそ、幸村君が私に笑顔を向けてくれるからこそ、私は何度だって立ち上がることが出来るの。
不意に浮かんだ彼の微笑みに胸を焦がしながら私はゆっくりと呼吸をこぼした。





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