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※幸村目線

山野という存在が俺にとってどれほど大きな存在なのかということは他人にとやかく言われる筋合いも無いくらいに理解しているつもりだ。
我が立海大附属のマネージャーとして唯一三年間月日を共にしてきた山野のおかげで俺達はテニスの試合に真剣に集中することが出来ていることも言うまでもない。
最初の頃は、中学校の頃からの俺たちのファンだと自称するような使えない女がたくさん溢れていて、正直テニス所ではなかったのが率直な意見だ。俺たちは真剣にテニスをしているのだというのに、俺たちを勝手にアイドルのように崇拝されたって困ることは困る。そんな奴らがマネージャーという仕事の過酷さに耐え切れなくなってどんどんと辞めていく中で、最後に残った一人が山野。


『幸村君、お疲れ様』


そうやってタオルを渡してくれる彼女の笑顔を何度自分のものにしたいと思ったのだろうか。
雑務をこなしてくれる山野は、今日も背中に流れる三つ編みを揺らしながらテキパキと仕事をこなしている。最初はただのおとなしい子だと思っていたのだけど、どうやらそうでもないな、と感じ始めた頃から気づけばいつも彼女のことばかり目で追うようになっていた。


『幸村君。スコア後から目を通してて欲しいな』


そう、つまるところ俺は山野のことが好きなんだ。
だけど、その想いを簡単に伝えられるほど強くもない自分に苦笑する。所詮俺も人間で、拒否されることが怖いんだ。拒否されて、それこそ俺以外の男の手に渡ることがあろうことなら、嫉妬に狂って俺は壊れてしまうことも容易に予想できてしまう。
だからこそ、自分から「彼女はマネージャーだ」という線引きをして彼女を遠ざける。だけど完全に拒否すればこの想いも消すことが出来るだろうに結局彼女に触れたいと望んでしまう俺の愚かさを人は笑うだろうか。

不意に彼女のことを呼んでしまったのはほぼ無意識。顔を上げたその瞳。『なに? どうかしたの?』と響く声。好きだよ。君が。だけどそれを言うはずもない口は「いつもありがとう」なんてありきたりな言葉を零す。あーあ、神の子が情けないな。その顔を見られないように俺はまたコートに向かう。






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