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幸村君から言われたその言葉を解釈するまでに時間を要した。一体幸村君は何を言っているんだろう、と他人事のように思いながらも、その反面でどこか勘違いにも似た期待をしている自分がいた。きっと、私のことを気遣って言っているんだろう。幸村君は優しい人だから。だから、私が傷付いたのは自分のせいだと思ってそんなことを言ってくれているに違いない。そう思うとなんだか申し訳ないような気分になって、気がついたら「ごめんね」とぼやいていた。次に見えたのは、少し困ったような顔の幸村君。


「……やっぱり、俺と付き合うのは嫌、だよね」
『……へ?』
「仕方ない。あんなことがあった後に言う俺も卑怯だね。だけど、俺はもし今山野が俺のことを嫌いになっていたとしても、君のことを諦められそうにもない。それに」
『ちょ、ちょちょっ、まっ、え……私、と付き合うの?』
「俺としては、そうしたいんだけどな」


儚げな笑みをこぼしたその瞳が嘘をついているようには更々見えなくて、私はしばしフリーズして、やっと思考回路が繋がった時には体中がありえないほどに熱をはらんでいた。嘘。幸村君が私のこと好き、なんて。そんなの夢みたい。そんなふわふわした気分のままで顔を上げる。


『私、なんかでいいの?』
「このタイミングで言うのもなんだけど、結構前から山野のことは好きだったんだよ」
『う、っ嘘っ、え、わ、私、もその……好き、です』


顔を上げたそこにいる幸村君は少し頬を赤い色に染めていて、夢じゃないんだって体言してくれているみたいで体温が上がった。


『でも、幸村君が好きな人、髪……長い、人だって』
「……そうだね。今は短い人、ってことになるね」
『っ……』
「……短いのも、すごく似合ってる。まぁ、君だったらなんでも似合うけどね」


つまりそれは。あの言葉は、私だけのために言われていた事になる。そう考えるともうこれ以上何も言えなくなって、私は吐息を飲み込むように息を詰まらせた。「ごめんね。俺のせいで」と言いながら私の髪を手で撫でるその手つきが優しくて、泣きたいような照れたいようなそんな気分に襲われる。


「俺が山野の全てを守りたい、と言いたいけど、完璧に守ってはあげれないと思う。だからこそ、俺の目の届くところに居てほしい」
『で、も。私、ちゃんと』
「たとえ、君が自分で自身を守ることを望んだとしても、守りたいんだ。今度は君の恋人として、山野のことを」


いいかな、なんて聞かれても肯定すること分かってるんだろうな。でもそれじゃ私ばっかりがいい思いしている気がして、だけど嬉しくて。ああ、もう頭がごちゃごちゃになる。するとそんなことをお見通しな彼は、ゆっくりと私の頬のラインを撫でる。


「これからは、一人で抱え込む必要ないんだ」
『……ゆ、きむらくん』
「というか、抱え込んで欲しくないな。彼氏としては」


わざと「彼氏」の部分を強調するように言ったその笑みは、なんだか少し意地の悪いような顔をしていたけど、幸せすぎてそれどころではなかった私は、とりあえず「出来る限り頑張るね」なんて可愛くもない言葉をこぼす。


『でも、その、あの……よろしく、お願いします』
「……ねぇ、その表情無自覚でやってるのかな?」
『へ?』


そんな私の髪を撫でながら幸村君が私の頬に唇を寄せるまであと3秒。







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