▼12

夢の中に山野が出てきた。
いや、彼女のことを思いながら眠りについたからといってその姿がこんなに鮮明に出てくるものなのかと少し眩暈がした。
花が咲き乱れるその花園で、三つ編みを揺らしながら純白のスカートに身を包んでいるその姿はまるで絵画の中に出てきてもおかしくないほどに美しい。

三年の間俺たちのマネージャーとして頑張ってきてくれた山野のことを素直に好いていた。人間として、そして異性として。だけど彼女の気持ちが分からなくて、つい俺は憶病になっていた気がする。この関係を崩したくなくて、愛おしくて、その眼差しが俺を捕らえていてくれるだけで幸せで。だけど俺だけをとどめておいて欲しいなんて独占欲は吐き出せなくて。結局、俺は彼女に触れないようにと一定の距離を置いていた。せめて俺の気持ちに気付いてくればいいなと浅はかな考えで「髪の長い子が好きだな」なんて言う曖昧な台詞で彼女に微笑んだ。嗚呼、伝わっただろうか。それとも全くきづいてくれないだろうか。

そんな悩みさえも幸せで。今となっては、何を思ってももう遅いのかもしれないけど。

夢の中の彼女に手を伸ばすと、ゆっくりと微笑んでくれた。


「……ごめん。……君を、傷つけたのは俺だ」


不二の手の中でぐったりと傷付いていたのは紛れもない山野の姿。
白い頬に幾線もの赤い色。肩で揺れる黒い髪。
その心さえも取り返しのつかない事になってしまっていたらどうしようかと思うと、気が狂いそうだった。いや、狂いそうなのはきっと山野の方だ。
痛みを全て抱え込んで、俺やみんなの前では微笑んでいた。辛かっただろうに。痛かっただろうに。だけど彼女は一度も助けを求めてこなかった。
その強さに甘えていたんだ。


「傷付いてほしくなかった。ただ、俺は、山野のことが……」


白い光。彼女がぼやける。
だんだんと霞むその姿に何度も手をのばし。


「……夢、か」


自分で呟いて静かに苦笑した。
覚醒し始める意識の中で、俺は彼女になんて伝えようとしたんだろうか。


そして、目の前に彼女を見た時に思わず体が反応していた。
謝ればいいのか。それとも俺の想いを伝えればいいのか。
違う、ただ、ただ。



『ゆ、きっむ……ら、君?』


ただ、こうやって抱きしめたかったんだ。
甘い香りと、柔らかい肌。
他の誰でもない。君が傷付いたからこそ俺はこんなに苦しいんだと今なら胸を張って言える。
その体を離すものか、と掻き抱きながら短くなった髪に口付けて俺はそっと囁いた。


「ごめん。君を守れなかった」
『そ、そんなっ、幸村君は悪くなっ』
「だから、こんなこと言う資格はないけど聞いてくれ」


好きなんだ。
ただ、ひたすらに、山野が好きなんだ。





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