▼11

自然と体が軽い。
朝起きて、リビングに下りると周助が微笑んでいて、私はゆっくり頷いた。今まで背負い込んでいたものは昨日の涙と一緒に流した。だからなのか、すごくすっきりとしている自分がなんだか可笑しくて、「あら、髪切っちゃったの?」と驚く母親に微笑むほどの余裕はあった。母親に傷のことを追求される前にたったかと家を出てきたはいいけど。

「ということで、僕も行く」
『へ?』

今日は土曜日だから、学校もないし。周助はそう言って私と一緒についてくる事になった。大体、青学の練習は今日は休みなんかじゃないと思うんだけどな。「別にもう平気だよ」と言って聞かせても彼は頑なに聞いてくれないし、結局一緒に練習に行くことになったわけだけど。なんだか、すごい目線を感じる、というか……。まあ、本来ならばここにいるはずがない人が私の隣にいるわけだから、驚くのは当たり前か。


「違うと思うよ」
『はい?』
「だから一緒に来てよかった」
『一体なんのことっ?』
「無自覚で可愛いって怖いね」
『……? ねぇ、周助どうい……』
「有沙先輩っ」


不意に名前を呼ばれて其処を見ると、目を真ん丸くした赤也君の姿。ぽかんとしたままの赤也君のその顔が赤い。一体どうしたんだろうかと首をかしげると赤也君の先にいた仁王君と丸井君も目を真ん丸くしている。
きっと、ほっぺにガーゼなんかつけているから驚いてるんだろうな、とか思っていると、さらりと髪の毛を撫でられる感触。目をやるとそこには柳君の姿。


『や、柳君』
「おはよう山野」
『うん。おはよう。あ、昨日はごめんね。何も言わず帰っちゃって』
「……いや、そのことは」
「僕が全部説明したから、大丈夫だよ有沙」
『ひゃあっ、と、突然耳元で話さないでっ』


周助は睨まれたのにも関わらず、くすくすと笑いながら「ごめんごめん」と悪びれる雰囲気もない。まったく。とにもかくにも、周助と一緒に居たら余計目立ってしまう。ただでさえ今の私は三年間のばし続けた髪の毛をばっさりと切って、付け加え隣に並ぶ従兄妹そっくりの髪型になっているのだから。とりあえず、ドリンクの準備にでも取り掛かろう、とその瞬間、不意に心臓が高鳴った。
コートからこちらを見ているその人物。


『ゆ、きむら、君?』


彼は、私の姿を確認したと同時に、私のもとへと。
駆けて来た。
そんなに血相変えてどうしたんだろうか、なんてのんきに思っている暇もないままで私の体は芥子色に包まれていた。






back
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -