テツが来た日から何日か経った。今日も今日とて青峰は私を抱く。だけど最近少しだけ青峰の様子がおかしいような気がした。相変わらず私のことを「さつき」と呼ぶのだけど、その後に何かを噛み潰したように苦い顔をするのだ。きっとさつきちゃんのことを思い出して、目の前にいる私に絶望しているんだろうけど。今日はテツの学校とうちの学校で合同練習するとさつきちゃんが嬉しそうに私に話しかけてくれた。幸せそうなさつきちゃんを見る度に、どうして私はこの子になれないのだろうという思いと一緒に、どうしてこの子が愛したのは青峰じゃなかったんだろうかと考えた。そうすれば、青峰は昔のように意地の悪いような笑顔を私に見せてくれたのだろうか、そんなくだらない幻想を抱いたりして。


「あんな」
『あ、テツ』


君がいるような気がして来ました。そう言ったテツは練習着に身をつつんでうっすら汗をかいていた。うん、テツもちゃんと頑張ってるね、なんて微笑んであげようかと思ったとき、聞きなれた声が耳に届いた。


「おまっ、そんなに押すなって」
「ほら、大ちゃん、部活行くよ」
「んなせかさねえでも聞こえてるって言ってんだろ」


なに、あれ。
少し先のほうで起こっている映像に頭がついていかない。ああ、やっぱりそうなんだ。なんて言葉しか出てこなくて正直笑えた。青峰の背中から押しているのはさつきちゃんで、なんだか少し嬉しそうな顔をしている青峰が見える。いくら私でもその光景は理解できる。嗚呼、もう、やっぱり。


『あんな青峰の顔……私見た事ないや』
「……あんな」
『あー。……やっぱり……駄目だったのか……私じゃ』


分かりきっていた。そんなこと分かっていた。青峰が私のことを愛おしげに「さつき」と呼ぶ度に心の中できっと終わりが来ることは分かっていた。なのに、私は今日という日まで何を期待していたんだろう。いつか青峰があんなという私本人を見てくれる事を? あんなとして愛してくれることを? 嗚呼、そんな日が来る日なんて来ない事も分かっていたのに。
青峰が前のようにニヒルに笑う顔が見たかった。自由で何にも捕らわれない彼に憧れると同時に尊敬していたから。だからさつきちゃんの代わりになったら青峰も幸せになってくれるんじゃないかなんて勘違いしていた自分が恥ずかしい。
私なんかじゃ、駄目だったんだ。
嗚呼、もう駄目だ。まだ彼と付き合って2週間しかたっていないのに苦しい。苦しくてたまらない。


『本当はね……青峰を幸せにしてあげたいな、なんて考えてたの。……男前でしょ?』
「……はい、君らしいです」
『……うん。……ただ、そんだけなの。……だけど、無理だったなあ』


私じゃ、役不足か。
呟いたと同時に視界がかすみ出して私はぼやけていく桃色と青を視界の端へと追いやった。ごめんね青峰。ごめん。ごめん。私は、やっぱり、貴方の傍にいるだけの女なんかじゃなかった。

やっぱり、あの子の代わりには、なれなかった。






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