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「君は正真正銘の馬鹿です」


テツは酷く怒ったようにそう言った。テツとは小さい頃住んでいた所が近かったこともあって幼馴染だった。今は私がこっちへと転校してしまったのだけど。異性の中では一番信用できて、一番仲がよかった彼は、私が青峰のことが好きだということを知っていてずっと応援してくれていた。何度もくじけそうになる私に「君には君の魅力がありますよ」と優しく微笑んでくれていた。きっとこの笑顔にさつきちゃんは惚れたんだろうなとぼんやり考えていたあの頃が今では懐かしい。今となっては、テツはそのさつきちゃんの彼氏で、私は念願の青峰の彼女になれた。テツには報告していなかったのに、突然彼は突然私の家に来るなりそう言い放ったのだ。


『……なんで知ってるの?』
「桃井さんから聞きました。……君は、本当に正真正銘の馬鹿です。……本当に、馬鹿です」


彼はそう言いながら私の髪を一房掴むと痛々しい顔で唇を噛んだ。いつの日だったか、テツは私の髪が綺麗だと褒めてくれたことがあった。ああ、そうだ。確か、私が青峰を好きだと思うようになって、同時に彼がさつきちゃんのことを好きだと気づいた時だ。彼女の桃色の髪を羨んでいた私に彼はやさしい目で「君の髪はとても綺麗で十分だと思いますけど」そう言ってくれた。ああ、今思えば私は何度テツに助けられたんだろうかと考えながらも、今のこの現状にテツが怒っているのにも容易に理解できた。彼の指の中には、もうあの頃とは違う色の髪。


「自分を変えることだけはしない人だと思っていました。何があっても自分の信念だけは持っていると信じていました」
『……私はテツが思っているような偉い子じゃないよ』
「ええ、そうですね。今の君は僕がずっと応援してきたあんなじゃない」


ちくりと心の奥が痛んだ。違う。私だって本当はこんなの間違っているとは気づいている。だけど抜け出せないの。彼に愛されることがこんなにも激しくも甘美なものだと気づいてしまったから。たとえ私自身を愛してくれていないと分かりきっていても、虚無のような目でいろんな子と関係を持つ青峰を見ていられなかった。あの頃みたいに、さつきちゃんを見る度に見せていた優しい笑みをただ思い出してほしかった。そんな一心で私は変わった。……いや、これもエゴなのかもしれないけど。その私の心を読んだようにテツは、小さく溜息をついた。


「……あんながそれでいいのなら、僕は何も言いません。……君は傷付くことを……誰よりも分かっているはずですから」
『……ごめんね、テツ』
「それは何に対してですか?」


分からない。けどごめんね。そう答えると彼はまた溜息をついた。だけどそれ以上私を責めることはせず、ただ静かに私の傍にいてくれた。ただそれだけの空間がこんなにもありがたいとは思わなかった。
きっとテツが心配してくれたとしても私はまた連絡さえあれば青峰の元へ「さつき」として向かうのだろう。誰も救われないことなんて分かりきっている。それでも、擬似的にも私は愛されて、青峰も愛で満たされるのならば構わないと思ってしまう私はきっと狂っている。傷付くことなんて、分かっている。分かっているけど。


「……それでも、青峰君が好きですか」
『…………うん。……なんでだろうね』
「……人の感情は、……言葉に表す事なんてできませんから」


テツは静かにそう呟くと、一度だけ私の頭を優しく撫でてくれた。






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