こんな風にちゃんと誕生日を祝ってもらったのなんて久々だ。というか、いつの話だろか。
純真華麗で少々ツンデレというどっかの漫画にでも出てきそうなテンプレ具合の彼女のあかりに連れてこられたのは彼女の部屋。別に来るのがはじめてではなかったものの、まさか自分の誕生日を祝ってもらえるとは思っていなかったからなのか心臓の音がとにかく煩い。付け加え、普段見る制服からふんわりとした色のスカートにはきかえているあかりは俺にとって目に毒。いや保養じゃけど毒。とりあえず意識を別にやろうと考えて部屋をちらりと見回すと、定番の折り紙のワッカと目の前のケーキとがまた強調された。


「サプライズ、ってやつじゃの」
『……嬉しい?』
「勿論」
『じゃあ、成功。ケーキ作ってみたの。多分……仁王でも食べれる甘さだから』


そんなとこまで気をつかわんでもええのに。仕草一つ一つに俺への感情が駄々漏れの彼女が可愛くて「嬉しすぎて、まー君泣きそう」とおどけて見せた。半分以上は本気だったけど。
すると彼女は不意に頬を緩めると隣においていたクッションに顎をちょこんと乗せながら俺を見つめた。「なん?」と優しく聞いてやると「仁王の誕生日を祝えてるっていう幸せの実感なう」とか言いながらこてんと首をかしげた。なにそれ。可愛すぎて死にそうになんですが。大体、こうやってサプライズじみたことをしてくれただけでも自分でも笑えるくらい嬉しい。それなのに彼女はそんな可愛いオプションをつけてくれるものだから、思わず手が先走った。
首裏に添えた手と唇をとらえた唇。触れるだけのつもりなんて微塵も無くて、口内まで奪ってしまえばいい、だなどと考えながら舌でいたぶる。いつもならばあまり積極的ではない部類に入る彼女の舌が、今日は控えめにだが俺に絡みつく。ヤバイ。これは。


『っ、ぷはっ……に、お?』


呼吸を整えるフリをして咄嗟に顔を背けたがきっと不自然極まりない。駄目じゃ。可愛すぎる。俺の彼女なしてこんな可愛いんじゃ。怖い。可愛すぎて怖い。


「これ以上したら、絶対に止まらんき、やめじゃ。明日も学校あるんに」
『……あ、……うん、その……でも、にお』
「ん?」
『……今日は、……仁王の好きにして……いいんだよ?』


振り絞るような声と、俺の指にそっと重ねられた指。本当はそんなはずかしことを口にしているのでさえ耐えられないであろうあかりが、俺を見つめている。一体誰の入れ知恵じゃ。どうせ幸村とか参謀あたりに決まっとる。じゃないと、この女がここまで素直にしてるはずがない。そんな考察が一気に駆け巡る反面、据え膳食わぬはなんとやらが俺を支配して、その結果。


『……に、にお……あの、はっ、鼻血!』
「……げ、うわ、ありえん」


たらりとした感覚と、目の前でいつものように笑うあかり。ティッシュを突っ込んだ不細工な俺を見ながら「やっぱり仁王が好きだよ」なんて言い出すものだからこづいてやった。すると彼女は先ほどのような甘ったるい表情とはまた違った笑顔を見せてきた。ああ、こっちのほうがいい。こうやって少し悪戯に笑うあかりの顔が俺だけのものって証。そんなことを思いつつも、どこか血の味がする口内をすぐに彼女で埋め尽くしてもらいたいとくらいは望んでもええじゃろ、なんて企んだ。

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仁王ハッピーバースデー20121204



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