『私が魔女っ子だったらどうする?』


大学のカフェテリアの喧騒の中でも彼女の声はよく響いている方だと思う。それは勿論、彼女自身の声の特性のためもあるだろうが、それ以上に俺がこの少女に抱いている感情が強いからなのであろう、と思うと少し自分の甘さに苦笑さえも出そうになる。もともと、人前で話す機会が多い立場にいた彼女は、もとから発声の仕方が上手いとは思っていたが、まさかこのようなところでもそれが通用するとは思わなかったが。ふっくらとした頬を緩ませながら、俺のほうを見つめているあかりに「一体どうしたんだ?」と聞くと冒頭の言葉をもう一度言われた。どうしても俺にその答えを聞きたいらしい。おそらく、昨日見た漫画の中にそのようなシーンが出てきたか、それとも一種の心理テストのようなものだろうと考え、とりあえず口にしていたブラックコーヒーを机の上に置いた。


「ふむ、魔女っ子、か」
『困る? それとも俺は、そのような連中とつるむつもりは無いって言う? それとも研究しちゃう?』
「……とりあえず、お決まりの黒い帽子と黒いスカートでも着てもらい判断することにしよう」
『……なんか、言い方が変態』
「そういう意味合いで口にしたのだから、あながち間違ってはいないぞ」


すると彼女は一気に頬を赤く染めてしまった。もともとうっすらと化粧していたために色づいていた頬が今度は、俺の一言で赤くなってしまったのだから何かよからぬ錯覚を起こしてしまいそうになる。付き合って数年はたつというのに、未だにウブな反応をしてくれるこの少女が愛おしくてたまらない。自分がここまで盲目的になるとは想像していなかった数十年前を思い出しながら、そっと微笑んで見せた。


「……まあ、答えは決まっているんだ」
『え! 何々っ、聞きたい』
「聞かなくても分かるだろう」


身を乗り出した彼女の顎を至極普通の動作のように救い上げ、色づいた唇に唇を合わせた。一瞬だけ時が止まったようにも思える刹那の行動と、驚いたらしいあかりの顔。


「あかりが魔女だろうと、なんだろうと……俺の傍にいてほしいと思っている」


この答えじゃ駄目か? と念を押すように首をかしげて見せると、彼女は恥ずかしそうに目線をずらしながら「そういうところがずるいよね」なんて呟いた。俺としては、そのような仕草をするあかりが十分ズルイと思うのだが、それは言うまい。
口の中に残っているのは焙煎された苦い味のはずが、彼女と唇を合わせる行為だけですぐさま角砂糖を溶かした如き甘さに変貌していた。その味を確かめるように舌でちろりと唇を舐めると、それを見ていたあかりが今以上に顔を赤くして、気まずそうに目線をそらした。
確かに魔女かもしれない。現に俺はこの少女のそんな些細な行動にさえ鼓動の高鳴りを感じてしまうのだから。そんなことを心の中でぼやきながら、伸ばした手で今度はその頬を優しく撫でてやった。


『もう、いつか絶対、蓮二を照れさせてやる』


甘い呪文を唱えるように宣戦布告してきた少女に「それは楽しみだ」とだけ返して、俺はまた、くどいほどに甘美で甘ったるい感情に、彼女と一緒に落ちていくのだ。



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蓮二きゅんとクリスマス過ごしたいよー!



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