『もー知らないっ、真田なんて今度からたなだにゃーっ』
「……さっきからこの様子なのか?」
「ふふ、見てる分は可愛いんだけどさ」


幸村から連絡があり、近所の居酒屋に向かうとそこには頬を真っ赤にしながらべろんべろんに酔ったらしいあかりの姿があった。普段からあまり酒を飲むわけじゃないあかりが何を思ってこんなになるまで飲み続けたのかは俺にはあまり理解はできない。分かることといったら、こいつを家まで送り届けなくてはならないということだ。


「おい、あかり。帰るぞ」
『……やだ。真田なんかと帰らない』


何を言い出したかと思えば今度は駄々をこね始めてしまった。正直言って、こんなあかりの姿を見るのは初めてに近い状況で、思わず目を瞬かせた。あかりは、普段は実にすばらしい女性だというのはおそらく俺以外の人間も理解していることで、ましてや自分で自分がわからなくなるほどに酒を飲むことなどありえないのだ。だというのに、彼女は今どう見ても悪酔いしている。こうなったら無理やりにでも連れて帰るしかない。俺と同棲している彼女の家は俺の家でもあり、彼女が帰る場所は俺の場所なのだ。そんなことを考えながら、暴れようとするあかりに手を伸ばすと、こつんと脇腹をつつかれた。


「……なんだ幸む」
「真田はきっと私なんかに欲情しないんだーっ」
「っ、な、なにをっ」
「……あかりが言ってたんだよ」
「……あかりが?」


お前、まだキスしかしてないってどういうこと。そう言った幸村は、少しあきれていた。きっと経験が遅いとか早いとかを呆れているのではなく、俺の愛情表現の下手さに心底ため息をついていることくらい理解できた。まさかあかりがそんなことを言っていたとは思わず、少し嬉しいような、それでいて体が火照るような感触に襲われる。


「あかりはさ、ちゃんとお前が好きなんだよ? お前もあかりを好きなんだろ? ……別に、行為を急げとは言わないけどさ、あまり愛情べただと愛想着かされるよ」
「……そうだな」


すまなかったな、と幸村に言うと、彼は「真田もあかりも俺の大切な友人だもん」と綺麗な笑みで、それでいて少し意地の悪い表情で微笑んだ。
気付けばあかりは心地良い顔で寝息をたてており、今日はその身体を抱きしめたままで眠りについてやろうか、などという不埒なことを考えた。





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