私の穢れている体で触れることが出来ないほど尊い人に恋をした。その人があまりにも綺麗で、美しくて、私は狂ってしまいそうなほどにその人に恋をした。名前を幸村君と言うその人は、私にとっては太陽であり光であり。私というゴミを照らしてくれているようなその存在は私にとってあまりにも眩しすぎた。
恋に落ちて、彼を見ているだけでひたすらに幸せだった。だけど、どこでどうばれたのか知らないけど幸村君は私が好意を寄せていることを知っていた。
私の態度でばれてしまったのだろうか、と考えながら「好きです」とだけ呟いてみた。
私なんかが相手にしてもらえるわけじゃないか、と分かってはいる。だけど、折角だから一生の思い出にこの思いを口にして伝えてみようかと思ったのだ。そんな放課後の教室の中で、爽やかに笑っていた幸村君はきょとんと首をかしげた。

「恋人になってどうするの?」
『え……』

その言葉に顔を上げた瞬間に唇にふにゃりと柔らかい感触が触れて、私はキスをされたのだと気づいた。あっけにとられる私をよそに、幸村君はたんたんと言葉を続ける。

「恋人になってキスをするの? じゃあ、今俺たちはキスしたんだから別に恋人にならなくてもいいよね。それとも抱かれたいの? 俺は君が俺の恋人じゃなくても、俺が君のこと好きじゃなくても抱けるよ」

嗚呼、最悪。
何がって。こんな状況で冷静な私が。幸村君に恋をしたら私はきっと綺麗な人間になれるんじゃないか、なんてそんなことを考えた私が馬鹿だった。幸村君は決して酷い人なんかじゃない。彼はあくまで、優しすぎるのだ。

ずっと見ていたから知っていた。
彼は、彼は。

「俺さ、誰かを愛したこととかないんだ。だから、君が望むものなんてあげられるわけがない」
『ゆき、むら君』
「…………じゃあね」

誰かは彼のことを冷たい人間だと言った。
他の誰かは彼のことを遊び人だと言った。

「お前は、そうは思わないのか?」

柳君が怪訝そうに聞く。穢れた私なんかにも声をかけてくれる柳君にゆっくりと口をこぼす。

『思わないよ。ただ彼は寂しいだけなんだよ。誰かを愛したいだけなんだよ』
「どうしてそう言いきれる」
『……だって、私は誰よりも愛に飢えているから。だから、分かるの』

彼は、愛したいだけなの。そして愛されたいだけなの。
きっと、彼は神様に愛されすぎたのだ。だからこそ、本当の愛に迷っているだけなんだ。私なんかと違って、誰かに愛されて、誰かを愛する事が出来る人だから。

『それを叶えるのは、私みたいに汚い人間の役目じゃないけどね』

そう言って私は今日もただ祈るの。
貴方が、私以外の誰かを愛せますように、と。神様は、汚れたような私の願いを受けいれてくれないかもしれないけど、せめて、せめて。この願いだけは、叶えてくれますように、と。


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幸村か柳目線も書きます。




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