私に年下の彼氏が出来たのはほんの二週間前だ。
短大の授業を受けながらそれを思い出したのは、講義の中で先生が突然脈絡も無く「仁王立ちの言葉の由来はですね」とか話しだしたからだ。前々からこの人はいきなり話し出す人だとは思っていたけど、流石に心理学の時間になんでその話しを始めたのか私には到底理解できそうにない。嗚呼、もしかしてこれも心理学の授業のうちなのだろうか。

そんなことを考えながらぼんやりと手首に目をやると、そこに天然石のブレスレッド。
まー君がくれたやつだ。

「あかりさんに似合うと思って買ってきたなり」


俺が着けてもいい?と言ってきたので了承すると、まー君はそれはそれは嬉しそうに頬を緩ませながら私の手首にブレスレッドをつけてくれた。


『ありがと』
「いっ、いや。俺こそありがとうじゃっ!その、つけてくれて、なんか嬉しい、です」


なんで最後が敬語になったのかは分からなかったけど、なんだか可愛かったからとりあえず抱きしめてあげた。その後まー君は失神してしまったのだけど。
まー君は、立海中学校に通う少年で、私との差はなんと……ああ、止めよう。言いたくない。
とにもかくにも、いつものように電車に揺られながら今日の昼ご飯は何を買おうかなんて考えていた私に顔を真っ赤にしながら告白してきたのが始まりだ。
あの時は、電車の中だというのに、なんて勇者なんだ! なんて思っていたけど、ふたを開けてみればまー君こと仁王雅治君は、超がつくほどのヘタレで、まるで私の前では犬のように尻尾を振っている。

そんなことを考えているといつの間にか講義も終わっていて、また今日が終わった。
中学生と付き合っているなんて、ちょっとした犯罪だし。それに、私なんかじゃなくてもっと他の可愛い子を選べばいいのにさ。そうは思いながらも私は結局、ブレスレッドを見ながらみっともなく頬を緩ませているのだけど。
不意に校門に人だかりができているのに気がついて、一体何事だろうかと眉をひそめていると、ひょこりと白い髪が見えた。


『まー君?』


名前を読んでやると、急にその人だかりから彼が飛び出してきて、私の体をぎゅうぎゅう抱きしめてきた。周りで黄色い悲鳴が上がっているのも気にしない、という風にまー君は私の首筋に顔を埋めている。少し痛んでいる髪は、私の首筋をさらさら愛撫しているようでくすぐったい。


『一体どうしたの? 来るならメールくれたらよかったのに』
「……会いたかった、んじゃ」
『そっか。……よし、じゃあ今日は一緒に帰ろうか』
「っ。うん!」


へにゃりと笑ったまー君があまりにも可愛かったので、とりあえずその頬にキスをしてあげると、彼は陸に上がった金魚のようにパクパクしていました。



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へたれ仁王君も好きです。




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