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『ごめん……。ごめん蓮ニ』

「汀?」



なんで謝っているんだろう。
自分でも分からないけど、心臓が痛くて、痛くてたまらない。
とにかく口が動いて、零れそうになる涙を必至にこらえた。



『今、私は、仁王の彼女なの』



私の両耳を塞いでいる手が、少し反応した。



「蓮ニの言うとおりかもしれない。自分でも何がしたいかが分からないなんて、最低かもしれない」



しれない、じゃない。最低なんだ。だけど、それを認めてしまったら、二度と顔を上げることが出来ないような奇妙な感覚に陥り、眉をひそめたまま、私は笑った。



『だけど……仁王の傍を離れることは……できない』


生徒会室に落ちた声は、資料の間を行きかい、私の頬に冷たく刺さった。





「よかったんか?」


歩く私の手を珍しくぐいぐいとひっぱっている仁王が、背中で言った。『なにが?』「参謀に告られたんじゃろ?」『……聞いてたの?』「…………ほう、やっぱりか」あ、はめられた。
いつもなら、そう思いつつ彼を蹴ることだってできるのに、今は何故だか体が重い。
幼馴染だと思っていた彼が、私のことを想ってくれていた。ずっと。
そして、今も。
それは所謂、私が蓮ニの彼女を傷つけたことと同じだ。



『仁王』

「雅治」

『……雅治』

「なん?」



彼が振り返ることはない。
それが、今はひどく優しく思えた。



『また、私は他人を傷つけた』

「……ほうか」

『蓮ニの彼女は、きっと痛かったよね』

「……さあのう」

『蓮ニも、きっと……痛かったよね』

「……そうかのう」




不毛なやり取りを繰返しながら、私は吐息を吐いた。そう、この人に言ったって答えは返ってこない。詐欺師である彼が本当の答えなんてくれるはずがないから。
だけど。絡められた指が、一つ強くなった。



「汀ちゃん」

『なに?』

「……俺のペテンに騙されとったらええ」

『……は?』

「おまんは、俺に騙されとったらええんじゃ」





いきなり何を言い出したかと思えば、よく理解できない事を言い出した仁王に首をかしげると、瞬間的に腕を引かれ、仁王の顔が近づいてきた、と同時に唇を奪われた。



「おまんを傷つけるのは俺じゃ。……おまんが傷つけるのも俺だけじゃ」




だから、俺に騙されんしゃい。
そう言う詐欺師の言葉は理解しにくいのだけれども、ありきたりな慰めの言葉よりも私の心には響いた気がした。
読み取りにくい顔に強気な顔をしてやると、「それでええ」なんて声。
結局は、お互いに騙しあっているのかもしれない、と思ってしまうほどに。

そのときに。
ニヒルに笑う彼の声にかぶさって聞こえたのは。



「ああ、仁王。こんなところにいた」



ずきり、と響く心臓。


『っ……ゆ……』




幸村。私はそう呟く事も出来ず、息を詰まらせた。


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