「随分としらけた顔をしているな」
『……出た。糸目』
「とりあえずそのふぬけた顔にこのボールペンシルで俺が直々に模様を描いてやろうか」
『最低。ごめんなさい。私が悪かった許して』


朝からまさか捕まるとは。なんて思いつつも彼の皮肉はあながち嘘ではない。つまり私は今相当酷い顔をしている。それもそうだ。昨日は結局寝る直前まで幸村君とメールをしていて、起きたら「おはよう」メールが来ていて、なんなんだと思いながら学校に来ると、神の子信者の友人からの質問攻め。「いつから仲良しなのなんであんたのメアドを幸村君が聞いてくるのよっていうか隣の席とか本当に羨ましいっ、ねえ、ほら、聞いてるの?」という具合にああ、もう私何か悪い事しましたか? とりあえず教室にいて幸村に話かけられたらまた友人からの質問オンパレードで面倒だからと思い来た屋上になぜか柳。


『昼休み、生徒会室じゃないの?』
「今日は昼会議はない。……ところで」
『ん?』
「まだ続けているのか?詩は」


一度きょとんとした私を見た柳は妙に晴れ晴れしい顔をしていた。実は何を隠そう私の詩を最初に読んで「奥深いな」と褒めてくれたのがこの糸目男だったりする。あれは確か一年生の夏。続けてるよ、と言いながら胸ポケットのノートをひらひらしてやると彼は満足そうに頷いた。


「お前の詩は、素直でいてどうも気に入っている。……技法などはまったくなっていないがな」
『煩いぼーちゃん。……でもなあ、なんかやっぱりまぁ、プロとかになる気はないから趣味の範囲だけど』
「別にそれでいいだろう。生涯続けていけばいい。精市が花をしているのも生涯続くものだしな」
『……はあ、また幸村君ですかー』
「ふ、まあ、俺からは詳しくは言わないが、とりあえず精市は一度狙った獲物は逃がさないから覚悟しておいたほうがいいな」
『何も言わないどころか超爆弾発言だよねそれ』


げっそりとしたままで言う私をけらけらと笑いながら見下ろす巨大男に溜息をつきながらも、私はとりあえず空を見た。うん、やっぱ今日も綺麗な空。


「いいものが浮かびそうか?」
『……うーん、うん。……まぁ、ほら、ナンバーワンじゃなくてオンリーワン精神だから私』
「ふっ、お前らしいな」
『……ちょっと、今鼻で笑ったでしょ。こら柳』
「俺はこれで失礼する」


また、お前の詩を聞かせてくれ。そう言った柳は少し優しい顔をした。まるで妹を見るお兄ちゃんのような目は嫌いじゃない。「出来たら教えるー」と叫ぶと彼はこくりと頷いて屋上を後にした。本当はこんなもの誰にも見せるものじゃないと思っていた私の詩を褒めてくれた柳は本当にいい奴だ。男の子はあんまり得意でもないし、まあ苦手というわけでもないけど。とりあえずそんな中でも柳は特別だと思う。


『って、なんでここで君が出てくるんだ』


不意に頭に浮かんだ中世的顔に私は毒づきながらもとりあえず息を一つ吐いてみた。








08



back


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -