その日の朝は、特に何も無かった。というか、いや、これが普通なんだけど。とりあえず上履きに履き替えて教室についた頃には既に半分くらい席が埋まっている。私の特に仲のよい友達は悲しきかな遅刻ギリギリ組グループ関連と何故か生徒会関連が多いために、まだいない。ちなみに一緒に登校する子は他のクラス。ついてない。そんなことを考えていると、目の前のほうでニコニコスマイル振りまく神の子発見。確かに、容姿はすごくいい。中世的だからなんかすごく親しみがあるように見える。だからこそ、なんでそんな人が私のことを好きとか言ってんのか。あ、あれか。視力悪いのか。うん。そうに違いない。相当視力悪い上に、ちょっと感覚神経もいっちゃってるのかもしれない。そうじゃないと、辻褄が。


「お待たせ羽島さん、じゃあ先生のところ行こうか」
『……は?』
「先生に頼まれただろ、ほら」
『え、あ、はあ』


ニコニコ笑顔で言われたら断れないんだけど。そんな文句をブツブツ思いながら廊下に出て少し歩く。職員室に行く途中の人気のあまりない廊下にさしかかったところで、幸村君がふうと息を吐いた。


「あー、朝から疲れる」
『え、はい?』
「大体さ、香水の匂いキツイ。っていうか化粧も濃い。あれは、柳的にはアウトだろうね。柳生と真田とかも論外って言いそう」
『え、あの……』
「あ、ごめんね。……あんまりにもしついこいから、羽島さんをつかう形になっちゃった」


さらりと酷いことを言っているこの人は間違いなく幸村君だ。だけど、さっきとギャップがありすぎやしませんか。え。っていうかさっきまでニコニコしてたじゃん。演技?まさかの縁起なの?あんな王子様スマイルで女の子に話しているからてっきり正真正銘の王子様系ヘラヘラ男子だと思っていたのに。


「……とりあえず、口に出てるよ」
『え、あ。……すいません。……っていうか、え……猫被り、すぎじゃないですか』
「うーんまあね。でも疲れる。いい加減にしろって言いたいけど、あまり本性だすと柳とか丸井とかが煩くてさ」
『……そ、そうですか』
「でも、君の前では素だから」


何でだと思う?と言いたげな幸村君は、こてんと首をかしげて私を見つめている。横を通り過ぎた女の子たちがチラチラとこちらを見てきたから、とりあえずすぐに逃げ出したかったけど、この人を無視するのも怖い。「な、なんででしょうね」とさらりとかわしたつもりが、ふわりと笑みを浮かべながら。


「羽島さんが特別だからだよ」


それはさっきの笑顔と比べ物がないくらい柔らかくて、思わず呼吸するのを忘れそうなほど綺麗だった。ぱちくりと目をまばたかせる私の前で目を閉じた彼は、「さて、帰ろうか」なんてのんきに言いながら「ありがとう、助かったよ」そんな言葉と共にまた微笑んでくれた。さっきとは違う笑みが、こんなにも綺麗だなんて。きっとあの子達は知らないんだろうな、なんて思ったりして。



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