01
絶えず生きる為に呼吸する私の唇を貴方は と云って塞ぐの
ちゅんちゅん、と小鳥が鳴く声がして、ぼやけていた意識が浮上していく。
目を開けると、明るい日差しがカーテンの隙間から漏れていた。
…皮肉なほど平和な朝だ。
………朝?
「………!!」
がば、とはねおきて窓から差し込む光の角度をよくよく確かめる。この明るさにしろ何にしろ、もはや「朝」とは言えない時間なのは明らかだった。
マリアがため息をついてベッドから出ようとすると、たくましい腕が腰をつかんで引き戻した。
「起きたか」
「ええ…まあ」
遅すぎる朝だけどね。と言おうと思って、躊躇う。それよりも、彼に言いたいことがあった。
「…おはよう、ミホーク」
「ああ」
にっと笑って返したミホークを見て、マリアはこんなに穏やかな男だったろうかと思う。
そして彼とこんなふうに朝を迎えているのはもっと不思議な気分だった。
ミホークが、マリアを抱き寄せて首もとに顔をうずめる。
「…起きないの?」
「もうしばらく寝かせろ。いまは気分がいい」
背にまわる腕はがっしりしていて、マリアをすっぽり包み込んだ。 彼の身体は温かくて、抱き込まれていると何だか安心したくなってしまう。
自分とはまったく違う、筋肉におおわれた肩を指先で撫でてみると、くすぐったいとミホークが首もとで囁いた。
初めて、かもしれない。こんな朝は。
「…ねぇ、ミホーク…」
「何だ」
私のこと好き?
こう問うたら彼はどんな顔をするのだろう。
一夜寝ただけで何を莫迦なと突き放すか。
当たり前だと言うのか。
「マリア?」
「あ、ううん。呼んでみたかっただけ。それより、そろそろ起きないと…」
ミホークの腕をほどこうともそもそするマリア。それでもまったく動かない彼。
マリアが困惑を伝えようと背を叩くと、いかにもしぶしぶという感じで腕が離れた。
「…急ぎの用でもあるのか」
「…別に…そんなんじゃないけど」
「ならば何故おれから離れたがる?」
身体は離しても、ミホークの手はマリアの腕を取ったままだった。
至近距離から、ミホークがマリアの顔を覗きこむ。
何もかも見透かされそうな強い光から、マリアは目を逸らした。
「マリア」
「だめよ、呼ばないで。もうこれ以上は、」
「何故いけない?」
「なんでもよ。だからもう離して」
これ以上一緒にいたら、離れたくなくなる。
否、離れられなくなる。
今でさえその体温が恋しくなっているというのに……
腕を振りほどいて離れようとするが、所詮力では適わない。離れるどころか再び引き寄せられて、ベッドに仰向けになる。眼前にはミホークの鋭すぎる瞳。
「…私を壊す気? 結構腰にきてるんだけど」
「それも良い。お前をそばに置けるのならばな」
クールな面で物騒なセリフを吐くものだ。
マリアが眉をひそめると、まだ分からないのかとミホークの眉間にもしわが寄った。
「昨夜おれが言ったことを覚えているか」
「昨夜……」
抱かれて意識が飛ぶ、さらに前。彼がなにを言ったか。
『おれが誰とでもこうすると思うのか』
そんなことは分かっている……でも、それを認めてしまうわけにはいかないのだ。
革命家と本気で付き合うなど…七武海として許されるはずがない。
自分はもとより海軍と世界政府を敵に回して生きている。だが彼はそうもいくまい。
七武海の称号剥奪にでもなれば、それがそのまま死に直結しかねない。
『いまは明日など忘れておれだけを見ていればいい』
蘇る彼の言葉は果てしなく理想的で魅力的だった。
昨夜だけが永遠にリピートし続けていれば良かった―――
マリアはつぅんと痛む目の奥を押し隠すように、目を閉じて唇を噛みしめた。
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