01



貴方は揺蕩う事を好み私は其れに不安ばかり募らせて、貴方に似つかわしい首輪ばかり求め漁っている





 結局、新聞にかかりきりになって深夜まで起きていたが、ミホークは戻ってこなかった。
 ―――少なくとも、マリアの意識があるうちは。
 疲れに耐えられなくなっていつの間にか机に突っ伏して寝たような記憶はあるのだが、朝になってマリアが目覚めてみたら、入った記憶のないフトンに寝かされていたからだ。

 ふすまの向こうへ行ってみると、ミホークが帽子を顔に乗せて横になっていた。
 徹夜で刀のことを話しあっていたなら、さすがに疲れただろう。
 畳の上で寝ている彼に、マリアはそっとフトンをかけた。

 せめてゆっくり休んで欲しいと思ったので、マリアは静かに部屋を出る。板張りの廊下を進んでいくと、膳を持ってきた女性に鉢合わせた。

「あぁ、お目覚めになりましたか。いま朝の御膳をお持ちするとこやったんですけど」
「あ、そのことなんですが……別な部屋でいただいてもいいですか?」

 きょとんとする女性に、ミホークがまだ寝ていることを話すと、別な和室に案内してくれた。

 女性の話によると、アヤメの仕事はまだ終わらないとのこと。今日も一日中、ミホークがアヤメのところにいるのなら、マリアは外へ行ってみようかと考える。
 ずっと新聞とばかり付き合うのも疲れるし、島の現状を肌で感じてみたかった。
 それに、もしまだ祭りがやっているなら、ぜひ見に行きたいのも正直な気持ちだった。
 もう朝早い時間帯でもないし、ちょうちんは消えているだろうが、屋台くらいなら見て回れるかもしれない。

「町に行かれるんはいいですけど、本当にお気をつけて下さいましね? 万一のためにも、あんさんにお伝えしといたほうがいいんと違います?」
「それはいいんです、大丈夫ですから……せっかく休んでるんだし」

 祭りがまだやっていることは快く教えてくれたが、一人で行かせるのを渋る女性にはそう言って納得してもらい、朝食を済ますと、マリアは必要なものだけを持って、平屋を出た。



 長い石階段を能力を使って軽々と飛び降りる。
 町にはやはり屋台があふれていて、賑やかだった。
 屋台で売られているものには色々あるようで、食べ物の他に、髪飾りやうちわ、風鈴など、和風な小物もたくさんあった。
 シャンクスがワノ国の話をしてくれたことがあって聞いたことはあったが、実際に見たことのないものばかりで、マリアは目移りしてしまう。
 そのうち、藁で出来た箕や、帽子のようなものが売られている屋台を見つけて、思わず立ち止まる。
 藁を一本ずつていねいに編み込んで、形を作ってあるらしいが、きっと手間暇かかる作業だろう。編み目の美しさに見とれていると、ふと隣に人が立った。
 マリアが何気なく見上げると、ぱっと輝く明るいオレンジ色が見えて、それはテンガロンハットであることに気づく。
 視線を感じたのか、テンガロンをかぶった頭がマリアのほうを向いた。

「……火拳のエース?」

 思わずつぶやくと、エースの顔が驚きに染まる。

「…おれのこと知ってんのか?」
「…知らないほうが珍しいんじゃない?」

 マリアは海賊ではないが、一応手配書には目を通している。第一、白ひげ海賊団の中でも、エースはかなり有名なはずではなかったか。

「そりゃ、そうか」

 気を悪くするでもなくにかっと笑ったエースに、マリアも微笑んだ。
 オレンジ色がよく似合う、太陽のような笑顔だ。

「そういや、お前も見たことあるな。マリア……だっけか?」
「ええ。"白ひげ海賊団二番隊隊長"さんにまで知られてるとは、光栄だわ」
「オヤジたちのことも知ってんのか? すげェなぁ」

 エースが嬉しそうに笑う。白ひげ海賊団は全員が家族のようで、絆が強いと聞いたが、エースも心底白ひげを敬愛しているのかと思う。
 店の前にいつまでも陣取るわけにはいかず、とりあえずエースと並んで歩きながら、マリアは口を開いた。

「どうしてこの島に来てるのか……訊いていい?」
「ん? ああ……いまは重要任務中なんだ。ある男を追ってる。お前は?」

 ここらで革命でもやるのかと問われて、苦笑して否定する。

「一緒にいた人についてきただけよ。ここで何かする気はないわ」
「……じゃあ、連れがいんのか」
「今は用があっていないけどね。町には一人で来たの」

 そのとき、エースがふいに顔を近づけて、まじまじとマリアを見つめてきた。
 何だろうとマリアはエースを見返す。なにかバカなことでも言っただろうかと思い返してみても、特に分からない。

「……エース?」
「あ? あぁ、悪ィ……なぁ、その連れってのは男か?」
「?……そうだけど」

 マリアが答えると、エースは成る程というように頷いて、にやっと笑った。
 その笑顔が何だか悪戯を思いついた子どものようで、カッコいいような可愛いような、マリアは妙な気分になる。




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