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始まりの光の中で




 かの大戦が、停戦という形で終結してから、数か月。

 アイリーン・カナーバを議長代理として成立した臨時評議会は、地球側との和平交渉に追われていた。互いにすれ違いはまだ多くとも、確実に平穏には近づきつつある。
 憎しみを持続させるだけのエネルギーは、もうどちらにも残されていなかったからだ。


 ***


 アプリリウス郊外に、小さな邸宅がひっそりと建っていた。
 古びた外観は、近代的なアプリリウス市にそぐわない。本来ならば、とうの昔に壊されて、建て直されていただろう。
 だがエヴァンジェリンは、この古い家が気に入っていた。郊外にあるので、特に外観の古さを気にする者もそばにはいない。小さいけれど庭もあるし、なにより古さが醸し出す独特の雰囲気は、任務で荒んだ精神を少しは落ち着かせてくれる。
 戦争中は帰ることも稀な家ではあったが。停戦してからは、ようやく家らしく使えそうだった。

 エヴァンジェリンは、淹れたてのコーヒーをカップに注いで、今朝オーブから届いたばかりの荷物を開けにかかった。
 依頼主はマリア・ラミレスとある。
 箱を開けるとさらに箱。そして封筒。封筒の中身は、映像を記録したチップだった。
 チップをパソコンに読み込ませ、パスワードを入れる。一度でも間違えれば、データはすべて消去される仕組みだ。

 『……こんにちは、エヴァン。お元気ですか?』

 画面に映し出されたのは、ピンクの髪に穏やかな笑みの少女。名をラクス・クライン。
 大戦終盤、第3勢力の筆頭としてエターナルを指揮した、愛らしい風貌からは想像しがたいほどの行動力と意思を持った歌姫。

 『わたくしたちは、皆元気にしていますわ。カガリ様は交渉に追われていらっしゃいますけれど、アスランとキラがそばについています。もちろんわたくしも……未だ憎しみが消えたわけではありませんが、わたくしたちは確かに平和に向けて歩んでいますわ』

 エヴァンジェリンはコーヒーを一口含む。このコーヒーも、以前オーブから送られてきたものだ。「砂漠の虎」らしい、何とも変わったブレンドだった。

 『プラントでも臨時評議会は力を尽くしていると、貴女の報告書で読ませていただきました。どうか彼らの力が、怒りと憎悪に吹き消されてしまわぬよう……身勝手とはわかっていますけれど、どうかお願いします。そして、貴女とカオルが遊びに来てくださるのをお待ちしていますわ』

 微笑むラクスの後ろでは、何種類かのハロが跳ねまわっているのが見えていた。
 もう少し状況が落ち着けば、オーブに出向く時間も作れるだろう。任務ではなく、プライベートとして。

『それから、今回はアスランが貴女に贈り物をしたいそうですわ。同封しておきましたから、さっそく開けてみてくださいな……気に入って下さると良いのですけど。オーブにいらっしゃるときも、連れてきてくださいませね?』

 エヴァンが箱をあらためると、四角い箱がまだ入っていた。
 …アスランから、しかもこの大きさとくれば、だいたい想像はつくが。

 「アスラン……これ、いい加減商品化できるわよ」

 箱から出てきた黄色いハロを見て、エヴァンジェリンは思わずぼやいてしまった。ラクスによれば、およそペットロボらしからぬ機能もついているらしい。

 『では……また折りを見てお手紙を出しますわね。そろそろ切らないと容量がおさまらないのだとか……直接、おしゃべりができれば一番いいんですけれど。では、体に気を付けてくださいな。また……』

 映像が切れると同時に、データの消去が始まる。
 ハロを机に置いて、エヴァンジェリンはパソコンからチップを取り出してへし折り、ゴミ箱へ放り込んだ。
 穏やかでない方法だが、確実な処置としてはこうするしかないのだ。
 ラクスたちとおおっぴらに話しあえる日々は、いつやってくるだろうか。

 とにかく、今日はメッセージを読んだら買い出しに行く日だった。
 ハロの電源は帰宅してから探すことにして、エヴァンジェリンはバッグを持って家を出た。




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