04






 わかっていた…目があってしまえばもう逸らせなくなるのだろうと…
 たとえその目線から逃れても、心のほうは捕えられたままになるのだ。


 ***


「本日は母とともにお招き下さり光栄です。カナーバ議長代理」
「あなたの力強さは議会でも大きな励みになりました。軍に戻っても、どうかその気質、忘れずにいてください」

 恭しくカナーバに礼をするイザーク。エヴァンは、絵になるその姿から目を離せなかった。
 イザークは、銀色の髪と白磁の肌に似合う白のスーツ姿。宝石で喩えるならまるで真珠のようだ。でもその冷たい輝きの中には、燃えさかる炎のような意思が宿っている。
 彼は美しくて、眩しい。汚れた自分など及びもつかないほど…

「そういえば息子から聞いたのだけれど、イザークとエヴァンジェリン嬢は知り合いだとか?」
「えっ? あ……はい。恐縮ですが…」

 突然話題に上がって驚くエヴァン。まさかイザークがエザリアに話していたとは思わなかった。

「…ご子息とは、評議会ビルでお会いしました」
「そう。年も近いようだし、これからもよろしくね?」

 頭が軽くパニックになりかけているのを、置き去りにされた理性で何となく自覚しながら、エヴァンは軽く頭を下げた。自分の知らないところで勝手に物事が進んでいくのが恐ろしい。これがもっと他のことだったら―――たとえば、実戦だの作戦だの、恋の色気など欠片もないような修羅場だったら、もっとまともなことが考えられるのに。そういう自分がおかしくもあり、恨めしくもあった。
 そのとき、エヴァンをじっと見据えていたイザークが口を開いた。

「…エヴァンジェリン、よろしければ、お近づきの印に一曲お願いしたいのだが」
「………!!」

 エヴァンを見つめる淡い青色に、絡めとられる。逸らすことなど許さないとでも言いたげに。
 イザークは躊躇うことなくエヴァンの細い手をとり、その甲にそっと口づけた。

「私と踊っていただけますか? エヴァンジェリン」

 この状況。断れるわけが無い。カオルさえも止めに入る気配は無い。踊れないわけでもなかった…訓練の一環でダンスの類は一通りマスターしていたから。
 踊った相手のことをまともに見つめた試しなど無かったけれど。

 今にも張り裂けそうに高鳴っている心臓。
 その理由は、追い詰められたが故か。それとも……

「……はい」

 息が詰まりそうな中、エヴァンが呟くようにそう言った途端、握られた手を強く引かれて、端正な美貌がぐっと近づいた。そのままイザークは腕の中にエヴァンを閉じこめるようにして、ホールの中央へと連れ出す。
 エヴァンの腰にイザークが空いていた手を回し、エヴァンもイザークの肩に手を回した。
 流れはじめた曲は、エヴァンの思いとは裏腹に、ロマンティックなワルツだった。




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