03






 プラントの首都、アプリリウス市。評議会を始めとする主要施設が集中する、プラントの要所。
 アプリリウス市の中央辺りにあるビルの最上階が、議員たちが集まる懇親パーティの会場だった。
 ガラス張りの天井には、描き出された満天の星空。だが、煌めく夜空の中、つい数ヶ月前までは血みどろの争いが繰り広げられたことは未だ記憶に新しい。
 もう二度と…誰しも、理由はどうあれ、そう願っていた。
 今回のパーティは、クライン派に政権が移ってから初めて開かれる。かつての強硬派の議員らも招かれているのは、お互いのわだかまりを少しでも解きほぐして和平への道を模索したいがためだった。

 エヴァンとカオルは、アイリーン・カナーバとギルバート・デュランダルのお付き兼護衛として、会場にいた。
 カオルは凛々しいダークスーツ姿。エヴァンは淡いグリーンのサテンにレースをふんだんにちりばめたドレスを着ていた。タイトなトップからは細い肩と腕が惜しげもなく光に晒され、明るい茶色の髪は綺麗にまとめられて、白薔薇をあしらった飾りで留めてある。
 本人にその気は全く無いのだが、集まった令息の視線が否応なく集中していた。

(だから嫌だって言ったのに…!!)
(まぁまぁ。よく似合うよ? それ)
(なお悪いでしょうが!!)

 ひそひそ声でカオルに文句を言うエヴァン。二人が接近すると、さらに視線が突き刺さる気がする…どうやらカオル狙いの令嬢もいるらしい。厄介極まりない。

(目立たないのが私たちの仕事じゃなかったっけ?)
(だからって軍服で来るよりマシでしょ?)

 むしろそのほうがまだ良かったような…カナーバ議長代理やデュランダル議員の前でなければとうの昔に殴っている。エヴァンは穴があったら入りたい気分だった。

「どうかしたのか、二人とも―――何か困っているようだが」
「いえ、問題ありません。大丈夫です」

 礼服を着たデュランダルの言葉に、エヴァンは事務的に返す。彼、ギルバート・デュランダルは、次期評議会で議長候補として急速に支持を集めつつある。凛々しい顔つきはどこかカリスマ性を匂わせ、頭脳は明晰。おまけに若い。戦争の爪痕に疲弊したプラントに、彼のような存在はたしかに魅力的だろう。

「しかしこんな美人がそばにいては、私も落ち着かないな。一曲お願いしたいくらいだ」
「いえっ、そんな…とんでもないことです」
「それは残念。だが君たちにも存分に楽しむ権利はあるのだよ?」

 もう戦争は終わったのだからね。そう言うデュランダルに、エヴァンは戸惑うしかない。たしかに、平和になれば自分たちのような部隊は必要なくなるが……
 …憮然としたカオルが、デュランダルを遮るようにエヴァンをダンスに引っ張り出そうとした時。

「―――カナーバ!」

 歩み寄る銀髪の女性に、カオルは内心ほっとした。エザリア・ジュール…彼女が来ているということは、自分の苦労も多少は報われてくれそうだ。

「エザリア、来てくれたのですね」
「ええ、勿論…デュランダル議員も、お会いできて光栄だ」
「私もです。エザリア女史」

 お互いに握手をするカナーバとエザリア。デュランダルとも挨拶したエザリアは、遠目からも目立っていた若い二人に目をとめる。

「こちらのお二人は?」
「彼らは私たちの護衛を務めてくれているのです。若いですが、よく働いてくれますよ」

 カナーバが紹介し、エヴァンとカオルは一歩前へ出る。

「初めまして、エザリア・ジュールです。二人とも美しくて驚いたわ」
「お初にお目にかかり、光栄です、エザリア様。僕はカオル、彼女はエヴァンジェリンです」

 カオルはエヴァンの手をとって、うやうやしく頭を下げた。エヴァンも一緒にドレープのきいたスカートをつまんで、礼をする。
 エヴァンは、その白々しさを自覚していた。なにが「お初にお目にかかり」だ―――本当は、エザリアとは言葉にしがたい因縁があるというのに。
 だが周囲から見れば、その姿は絵に描かれた美しい番のようだった。

「あぁ、カナーバ、私の息子も議会で世話になりました。改めてデュランダル議員や彼らにも紹介したいのだけれど」
「ご子息を? 彼は和平のために力を尽くしてくれましたね」

 エザリアの息子。誰なのかが分かっていたエヴァンは心臓がはねあがったが、表には出さなかった。まさか、こんなところで会うことになるなんて―――腹の底で企んでいただろう相棒を、あとでどうしてやろうかと思うと胃がねじれそうな気がした。

(…イザーク……)

 評議会ビルではあんな別れ方をしてしまった……きっと彼はエヴァンのことを調べたのだろう。

「紹介しますわ、息子のイザーク・ジュールです」

 あらわれた銀髪の美青年。氷のように青く鋭い瞳が、エヴァンをまっすぐにとらえて離さなかった。




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