たまたま見かけた女性向け雑誌の表紙に

”工藤新一のスマートコーデ”

なんて書いてたから



普段はスカしたライバルの、ちょっと違う面も見てみようという
単なる好奇心から手にとった



(………おお……)



誌面の名探偵からは、若干やらされてる感が伝わって来るが


さすがに女優の息子と言うか、

持ち前の容姿と独特な雰囲気は
黒ジャケットにストライプシャツの王道コーデによく合っている

下手なモデルよりよっぽどな出来だ


にしても表紙に書いといて、(恐らく本人の希望だろうが)
掲載ページがたった1ページってのは詐欺だろ

と悪態づきながら
やたら派手な装飾の雑誌を棚に戻そうとすると

後ろを通り過ぎる何かと肩がぶつかった



「あ、すんません」


「す、すみません」



………うん?



どこかで聞いた事のある声だ



思わず振り返る


視界に入ったのは



(――め、名探偵!?)



黒い帽子に黒いジャンパー

不審者かと思う恰好をしているが
その人物はまぎれもなく
あの工藤新一だった



(え!?な、何で名探偵がここに居るんだよ!?)



今しがたあんなものを見た後と言う事もあり

驚きと何か後ろめたい気持ちで鼓動が早まる


けどここで変に慌てて、
この鋭い探偵に
万が一正体がバレる可能性もあるから

俺は一瞬で”普通の青年”に成り切ろうと…した


しかし

彼が持っている雑誌の表紙を見て
その努力は水の泡と化した



”アナタのハートも盗んじゃう?怪盗キッド特集号!”



さっきまで俺が持っていた物と同類の
やたら派手な表紙にはそう書かれている


怪盗の特集ってなんだよとか、ツッコミたい所はいくつもあるが

何より信じられないのが、それを名探偵が大事そうに抱えている事だ

驚きで固まってしまってる俺に
もう一度軽く頭を下げ
レジで精算を受ける名探偵




(…ラ、ライバルとしての…研究材料…だよな…?)



そう思いたい

そう思いたいが、
先程の顔はどうみても恋する乙女のソレで。

…もしかしたら俺は
とんでもない物を盗んでしまったのかもしれない


「……………」


それでもまんざらじゃない、
むしろどこかで嬉しがってる自分にまた少し驚き

俺は棚に戻した雑誌を取って

ただ1ページの”工藤新一のスマートコーデ”を保管するために
レジへと向かった



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