阿笠邸、その名の通り
阿笠博士の持ち家だが


当の本人が外出している今

そこに居るのは
一人の少女と高校生だけだ




一人の少女は

「新一から嫌われた…」
とうなだれる男を見て招き入れた事を

今猛烈に後悔している




「いい加減泣くの止めたらどう?」



みっともないわよ、と付け加えて
冷めた珈琲を一口啜った




「だって!だって新一がドア開けてくんないんだよ!?」




子供の様に泣きじゃくる彼が
警察相手に余裕こく怪盗とリンクしない



「新一〜!」



彼は壊れたカセットのように
新一と連呼するばかりで

そもそも何故こんなことになったのかの理由は聞けていないから



私は水の入った注射器を用意して
強行手段に出る事にした







「とっとと原因を言わないと、打つわよ」






とびっきりの笑顔と共に。


















約3時間前



「ハッピーバースデー!新一!」




強盗犯も真っ青な勢いで工藤邸に駆け込んだ快斗は


「近所迷惑なんだよ」の意味合いの蹴りにも怯まずに
新一の身体に抱き着いた




「本当は1番最初に祝いたかったんだけど、ごめんね」



その言葉通り
只今の時刻は
5月4日20時20分



キッドとして海外に赴いていた快斗は
先程帰国し、

昼に行われた誕生パーティーには参加できなかった



疲れているはずなのに
わざわざ遠くから飛びつきにくる恋人に
新一は少しだけ嬉しそうに笑う


その小さな唇に快斗がそっと口づける





「…ねぇ、ちょっと黒羽君。
まさかこのまま」


「違う違う!違うって哀ちゃん!
問題はこの次なの!」



偽の注射で脅迫して聞き出した話は
どうやら生々しい物にはならないらしい


新しく煎れたコーヒーを
また啜って続きを聞く






「…ん、っは…」



ゆっくりと唇を離すと
トロンとした瞳に理性を奪われそうになるが

ぐっと我慢した快斗は
新一の頭を数回撫でた



「パーティー、楽しかった?」


「ん、まぁな」



探偵団の奴らまで
わざわざ来てくれたんだぜ、
と微笑む新一に心が暖かくなる






そこまでは、良かった





だが、快斗が笑顔でプレゼントを渡した途端
新一の表情が固まってしまったのだ





「……新一?」




固まったままの新一の目の前で
ヒラヒラと手を振る快斗は内心焦った



絶対に喜んでくれると思っていたからだ



だって今回のプレゼントは


今日の為に福引きを38回してようやく引き当てた

”イギリス・ロンドン3日間の旅”

という旅行券なんだから



これがあれば
新一の大好きなホームズゆかりの地にだって行ける


なのに新一は
何か不満そうな顔で睨んでくるばかり


そして一言




「んなもんいらねぇよバ快斗!」




と子供の様に叫んだ後

気付けば快斗は閉めだされていたのだ













「…で、何で工藤君が怒ったのか解らないのね」


「……うん」




話を聞き終わり、哀は大きくため息をついた



突き返されたという例の旅行券を見て
さらにため息は大きくなった




「…彼、絶対勘違いしてるわよ」


「え!?何?何か解ったの!?」



驚きながら自分を見つめる快斗を見ない様にしながら
また一口コーヒーを啜る




(…本当めんどくさいわねこのカップル)




甘い誤解をしているバカップルに
コーヒーの苦味が心地好い


机にへばり付いて
「解んないのは俺だけか…」と落ちこむ快斗に
馬鹿馬鹿しいと踏んだ私は
シンデレラに時刻を知らせる



「もう0時なっちゃうけど、
最後くらい一緒に居てあげなくて良いの?」


「うっそ!もうそんな時間!?」




ナメクジのように机にへばり付いていた快斗は
時計の11時50分の表示を見ると

先程の落ち込みもどこへやら



あっという間もなくお礼を言い、
工藤邸へと走って行ってしまった








「……工藤君も変わったわね」





どっと疲れた哀は

隣人の変化に少しだけ微笑んで
明かりを落とした

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