「江戸川コナン、探偵さ」









…なんて決めゼリフ、ふさわしくないのかもしれない



この
甘ったるい香り漂う台所に立つ自分には。




「あっち!!」



”キッドキラー”と世間に名を馳せた小学生探偵は

あろうことか
その怪盗の為に火傷をおったところだ



「…意外と難しーじゃねーか…」


右の指先を水にあてながらブツブツと呟く

腕時計を確認すると、23時過ぎ。

後1時間弱で、2月13日が終了してしまう


コナンは小さく焦った




















「じゃあ、夜ご飯は冷蔵庫に入ってるからね」



夕方、申し訳なさそうに
蘭が出かけた先は鈴木家



新一への想いがただの幼なじみへと変化した今

園子の家に泊まりがけで”友チョコ”なる物の制作に励むらしい


「うん、行ってらっしゃい蘭ねーちゃん」

「行ってきまーす」



パタリと扉が閉まると同時に静まり返る事務所

主である小五郎も
浮気調査の為
明日の朝帰宅するそうだ


こんな絶好の機会は
他にない







「あの変態紳士へのチョコをつくろう」


と決めたのは昨日




最初は本当に
”ちょっと驚かせてやろう”
くらいの気持ちで思いついたのだが

調べていく内に段々と
”これアイツ好きそうだな”
とか
”喜んでくれるだろうか”
だとか

アイツの事を想うと
何だか止まらなくなって


いつの間にかデパートへ
材料を買いに走っていたのである


「手作りなのはやっぱり、その、
恋人同士って、ほら、
そういうモンだろ?」





言い訳を呟きながら道を歩く少年は
自分で言った”恋人”という響きに自分で照れていた



そしてこれが

夕食も風呂も済ませたコナンの目の前に
熱々に溶けたミルクチョコレートが在る理由でもある



(ゴムベラで混ぜるったって…重いんだよ!)


ようやく冷やし終えた指でヘラを握りしめるが
面積の広くなったチョコはかなり重い


本に書いてあった
”ちょー簡単で、ちょー美味しい!”
と言う売り文句は詐欺だ、と
踏み台に乗ったまま悪態づく


これで
「ちょー美味しい」の方まで嘘だったら
容赦なく企画者にクレームを入れてやろうと思う



「よし…で、次は…」


既に蘭が持っていってしまった本の手順を思い出す


確か次は丸めやすいように何等分かにして
一口大に丸めたらバットに移す

という作業だった気がする


下に氷水を入れたボウルを用意していたおかげで
少々固まってくれたチョコは
容易に丸い10個の塊に分かれてくれた

これを約30分間冷やしたら
後はデコレーションだけだ



汚れてしまった手を洗いながら腕時計を見ると
今は23時55分なので
確実に日は越してしまうが仕方ない


そもそも15日になる訳でなく、
14日になるだけなのだから
気にする事はないだろう

と自分に言い聞かせながら
コナンはデコレーション用の
ホワイトチョコを溶かし始めた





白いアイツにぴったりだな、と思い

ついつい手を伸ばしてしまったホワイトチョコ



気障なあいつには
たまたまコレしか無かったと、ごまかそう


そうじゃないと
絶対心底嬉しそうに微笑まれるから


そうなったら、今でさえ赤い顔を
隠し通せる自信がない






「…喜んでくれっかな…」





真っ赤になったコナンの呟きと共に

時計の短針と長針が
ピッタリと重なった



















「喜ぶに決まってるじゃないですか」





背後から

チョコに負けないくらい甘い声が聞こえた時

心臓が握り潰されたように縮み上がった



「…キッ…!!」


「こんばんは、名探偵」



犯行日でもないのにわざわざ白い衣装の怪盗キッドに
今更どうやって入った等は聞かないが



「なんでココに居んだよ!」



これだけは聞いておかねばなるまい。


すると変態紳士は
ニヤリと笑って答えてくれた


「いえ、日付変更と共にお届けに参ろうかと思ったら」


こんな可愛いことをしていたもので、

俺の後ろに目をやる


「あ」と気づく頃には遅く

台所にはたくさんの証拠が散らばっていた



「こ、これは」

「どなた宛てへのチョコをお作りに?」


問いておきながら
答えが完全に解っている笑みが近づいてくる

気づけば背中にゴツリとした感覚
冷蔵庫に押し付けられている事が解った



「…こんな火傷までして」

「…バッ!」



しゃがんだキッドが右腕をとったかと思うと

火傷をしていない部分を赤い舌で舐められた


探偵事務所で
夜中に
甘い香りの中で
手を舐められる



その全ての要素が
ぞくりと胸を奮わせる



「待っ…!ひ、火が…」



危うい気分にのせられてはいけない
と思って訴えてみたが

「コレですか?」

いつの間にかキッドの左手にある
ホワイトチョコが入ったボウルに阻止された


「白いチョコ…
さて、誰に向けての物でしょう」



クスクスと惚け続けながら
手袋をしたままチョコを掬った怪盗に
知るか!と叫ぼうとしたら

その指が口に入れられた


「んッ!?」


一瞬で広がる甘い味


ホワイト独特の甘味が
キッドの指と共にコナンの口内を犯す


「ん、ぅッ!」


指が外されたと思うと、
また掬って入ってくる


上顎をなぞられたり
唇に零れたものを舐められたり

チョコと口を丹念に味われる


「んぅ…ッ」


やっと解放されたのは
キッドの手袋が
唾液とホワイトチョコに塗れた頃だった



「ッは……テメ…」

「名探偵が可愛いのがいけないんです」


そう言ってペロリと指についたチョコを舐めとる怪盗は
想像通り、心底嬉しそうに微笑んだ



「絶対お前にチョコやんねーからな!」

「今頂きましたが」

「い、今のはデコレーション用だ!」

「?いえ、両方です」



当たり前に首を傾げる怪盗を見て
慌てて冷蔵庫の大きな扉を開けると

10個の塊が1つ減って9個になっていた


「テメっ!いつの間に」

「私は怪盗ですよ、名探偵」


にっこりと幸せそうに笑うコソ泥は

味の感想が聞けない俺の頭の中を覗いたように








「私の中で、最も美味しいチョコレートでした」




と恥ずかし気もなく囁いた





















「で?オメーのはどれなんだよ」



日も変わって、1時を少し回った頃


怪盗と探偵は
暖房の効いた台所で
仲良く後片付けをしている




例のチョコレートは
口に入れれば一緒だろ、
と照れたコナンにより

チョコの塊にホワイトチョコをかけただけの
シンプルな完成形として
全てキッドの口へと運ばれた



「あぁ、ココにありますよ」



ぱっと取り出されたのは、細く長い白い箱

確認をとり、フタを開けたコナンは思わず息を呑んだ





「…な、んだよコレ…」



横に6つ並ぶのは
綺麗な薔薇…


…の形を模したチョコレート



固いはずなのに
柔らかい質感を繊細に表現したソレは

高級店に並んでいてもおかしくない代物だ



しかも、甘い物がそこまで好きではない
自分の為のビターチョコ



「……盗んだのか?」

「手作りですよ!!」



名探偵にそんな物贈りませんよ!と憤る怪盗を尻目に
コナンの顔はみるみる内に朱に染まった



「名探偵…?」


不審に感じたキッドに覗かれて更に赤くなる


「ふ、ふざけんな!」

「どうしてです?」


「だっておれの…あ、あんな…」



あんな手作り感満載のチョコを
こんなプロ級の物を作れる人物に
あげたのだと思うと恥ずかしすぎる


味だって絶対に劣るし、
下手くそだと思われたかもしれない


羞恥と受け取った喜びで真っ赤になったコナンの顔を
大きな掌が優しく撫でた



「名探偵、言ったでしょう?」



柔らかな声が耳をくすぐる



「最も美味しいチョコだった、と」



二回目の宣言にまた顔が熱くなるが


誰がどう見ても丁寧に作りこまれた薔薇を見て


今度は素直に
「ありがとな」と呟いた


その一言だけで華が咲くような
笑顔を見せるキッドから視線をそらし

一つを口に放り込む



照れ隠しに食べたチョコの薔薇は


ビターだと言うのに
今まで1番甘く感じ、




”ちょー美味しい”ものだった











2.14
うめこうめ


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