「…………」


衝撃的過ぎる言葉のミサイルを
見事に受け留めた怪盗は
ただただ石のように固まっていた

試しに白いマントの端を摘んで離してみても
バサッと布が落ちるだけで
何の反応も返ってこない


「…あの二人が3日間
家を空けるからって預かってたら
高熱が出たの。
そして目が覚めたら熱は下がってたけど
中身まで7歳児になってたって訳」



この説明も耳に届いていないことは
火を見るより明らかだが
何も言わずにこの哀れな
怪盗の姿を見るよりは良い


楽しそうにそれを突っつくコナンを見て
頭痛を感じる哀であった





「なぁはいばらー、こいつ誰だ?」



子供らしく間延びした声に
彼らの何とも複雑な関係を
どういう風に答えようかと考えていると

ようやく思考回路が繋がったキッドが
コナンに向かって叫んだ



「怪盗キッドですよ!!
貴方の1番の好敵手である
気障なコソ泥です!!」

「会陶器ッド?」

「発音が違います名たんてええ!!」



ぶんぶんと泣きながら
頭を抱える怪盗の姿は


まるで外国の売れないコメディアンみたいね
と哀は感じた



「悪いけど、明日検査して
調べるから今日は帰ってくれる?」



出来れば引き取ってもらいたかったが、
見る限り完全に錯乱している
彼には無理そうだ



これ以上面倒を抱えたくはない。
哀は早々に怪盗にご退出願いたかったが






「俺こいつといたい!!」




「「……え」」




あろうことか、
とびきりの笑顔でそう申し出たのは

見た目は子供、
頭脳も子供と化した名探偵だった


いや、今は名探偵でも
ないのかもしれない




「あのねくど…江戸川君」


いくらこの人が変な格好して
好奇心を刺激されるからって
それは無理よと言おうとした瞬間




「もちろん良いですよ名探偵!!」



ガバッと先程までの意気消沈っぷり
とは打って変わって
輝く怪盗が、そこに居た

その顔には大きく
「名探偵と一緒に居れる!」
と書いてある

確かにお互いの立場を
気にしないで済む今の状態は、
怪盗にとっては都合が良いのかもしれない




「…勝手になさい」


「本当ですか!?」


その代わり、
いつ元通りになるか解らないんだから
せいぜい正体が
バレないようにしとくのね
と念を押す



この厄介な問題児2人が
まとめて居なくなるのなら
有り難いと思っただけだ



「はいばら!ありがとな!」



決してこの笑顔に負けた訳ではない。決して。



「…明日検査するから
今日は工藤君の家に泊まってちょうだい」

「もちろんです!」



意気揚々と小さな身体を抱えて
出ていった怪盗を見送りながら


残された哀は
後退が治らなかった場合の
居候先の探偵と女子高生への言い訳を考えながら

海より深いため息をついた


























「はい名探偵ばんざーい」

「ばんざーい」



何の迷いもなく両手を挙げるコナンに表情筋が緩みまくる


白い素肌に危うい感覚を覚えるが
さすがに本物の7歳児に
手を出す程落ちぶれてはいない



適当に拝借した
大きすぎるTシャツを着せると
袖が10cm程余ってしまった


それでも懸命にベッドの段差をよじ登る後ろ姿には
やっぱり表情筋が崩壊してしまうのだ。


「キッドー…」


ようやくベッドを登ることに成功したコナンが
ぼんやりと焦点の合わない瞳で見つめてきた


「眠いですか?」

「…んー…」


先程お隣りさんの家から
失礼したのが約22時


心も幼児化したコナンが
うつらうつら頭を振りながら
半分夢の世界に入っているのも仕方ない



「おやすみなさい
名探偵」



ぽんぽんと頭を撫でる

明日は休日と言えども
きっと検査とやらは朝行われるだろう


普段休まないこの身体を今は少しでも休ませたい


子供らしく
無防備に寝息をたて始めた横顔をしばらく楽しんだ後
上着を脱いだ怪盗は
小さな身体を緩く抱きしめて
眠りについた








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