下に広がるは
人情味溢れる大通り

豆粒のような人達は
皆何やら楽しそうに笑い合っている


このどこか忙しい空気は割と好きだ



…いや、好きだった
少なくとも4時間前までは





「な?えートコやろ!大阪は!」


「……あぁ、まぁな」




8月10日 快晴


姿を偽った白い怪盗は
やたら黒い高校生探偵と共に居た



大阪のシンボル
通天閣の展望台に。

仲良く、とても友好的に。




「ほれ、あっこがさっきワイが言いよった――」


楽しげに窓の外を指しながら説明する男、服部平次。

とても犯罪者である自分に語りかける表情ではないが
怪盗はその理由を知っていた





「――おい、聞いてんか?”工藤”」

「あ?あぁ聞いてるよ」




切れ長のブルーアイ

上品な口元

重力に逆らった不思議な2束の髪



そう、怪盗の姿はまさに
高校生探偵工藤新一
そのままだった


「何やぼーっとしてからに」

「いやー…ちょっと疲れちまって」



これは本音

なんたって今日の一日と言えば…









(さーて…
今日は彼に花を差し上げましょうか)


とカッコ付けながら
工藤新一の姿で駅についたのが朝9時


それから「よぉ工藤!」と出向かえてくれた服部に
大阪の各名所を連れ回されること4時間



「あのさ服部、
オメーに渡したい物が」

「見ーてみぃ!高校生の身体で見る景色は格別やろ?」

「いや、あの」

「お!もうこんな時間かいな!
次行くで工藤!」



花だけ渡して早々に切り上げようと思っていたのに
こんな調子で
口を挟む隙もなくズルズルと引きずられてしまった




(ある意味1番の強敵、だな…)




読書好きは体力あらへんなぁ〜
と冷やかしてくる彼を見て
ため息が漏れた。本日14回目。


これはホントに早く引き上げないと
本来の目的を達成しないまま一日が終わってしまう


「しゃーないわ、ジュース買うてくるから座っとき」

「あぁ、サンキュ」

軽く手を挙げると
それを合図に服部は走りだした

軽やかな足どりは、とても今日一日行動を共にした人物とは思わせない




(今の内に置いて帰ろーかな…コレ)



ポケットに手を入れ、
ピンク色の小さな花を確かめる


しかし、黙って花だけ置いていくのも
何だか風情がないというか、
紳士を名乗る者としてどうだろう。



だからと言ってこのまでは帰りは何時になるだろうか

この高校生探偵クン達は異常に仲が良いので
もしかしたら泊まりがけになるかもしれない


「うーん」


「何や事件か?」

「いやー?いつ帰ろって……うおぉおお!!」


いつの間にかジュースを持った服部が隣に座っていた


考えに集中していたからなのか、服部が気配を消すのが上手いのか。はたまた両方なのか。本気で心臓がバクバク言ってる。


「おもろい顔しとらんと、飲み」

「お、おう」


プシュッと
炭酸飲料のプルトップを引き上げながら
結局また自分が引き上げるタイミングを逃してしまった怪盗だった




















辺りがすっかり暗くなる頃
二人は東京行きの電車を待っている

もう時計の針は20時を回っているが
服部から泊まりの誘いがなかったのだけが救いだ


「なぁ工藤」

「んー…?」


ホームの柱に寄り掛かり適当に相槌を打つ

一日中歩き回って正直クタクタだ

椅子に座ろうとしたら「若いんやからシャンとしいや!」と見知らぬおばさんに叱咤されたが。



「今日楽しかったか?」


隣で同じように寄り掛かった服部が
突如静かに呟いた


「あぁ、楽しかったぜ?」


…少なくとも、最初の一時間は



「ほなら、また連れて来たるわ」

「え゛っ…い、いや良いよ、
前にも何回も来てるし」



正直、後二年くらいは大阪の地を踏みたくない



「――は?初めてやろ?」


「そりゃこの身体になってからだろ?コナンの時に何回も――」















「ちゃうちゃう、
”お前”と来たのや」




「……え……」




周囲の音がピタリと聞こえなくなる











これは、もしかして


いや、もしかしなくても







「バレ…てらっしゃる?」




恐る恐る尋ねると
ジトリと目線だけがこっちを向いた


「確証は無かったんやけどな…さっきジュース買いに行った時工藤に電話かけてハッキリしたわ」


しまった、と心の中で舌打ちをする

これだから早く引き上げておけば良かったのだ
しかし今更弁解しても見込みはないと踏み

諦めてふぅと息をはいた



「…どうします?捕まえますか?」



お手上げと言う様子で両手をあげると
服部は呆れたように言った


「アホ、せやったらとっくの昔にやっとるわ」

「…それもそうですね」


しかし散々歩き回せて弱らせた後…という可能性も無くはない。油断は出来ないのだ。


「その前に、ソレ止めてくれんか?」

「はい?」

「格好や格好!
工藤のカッコで敬語使われたら気持ち悪ぅてかなわんのや!」


かーっと頭をがしがしとかく彼を見て
今自分が工藤新一の姿だった事を思い出す

確かに仲の良い人物の口調が変わるのは気持ち悪いかもしれない

例えば白馬が関西弁だったら………やめよう。


「これはこれは失礼しました」



スッと手を顔に翳して変装をとく

何も身につけてない、ありのままの素顔だ


「…それがホンマの顔か?」


案の定服部がやっと全身をこちらに向けた


「さぁ?どうでしょう」

素顔を曝しても
これが素顔かどうか解らない
オオカミ男の逆の発想である

「それよりも、どうして捕まえないのです?
まさか本当に大阪見物を?」


視線を真っすぐ服部に向けて問うと


「あぁ、せやけど?」


ぷいと横を向いた服部が軽く言った

それに驚いたのは怪盗だ。ポーカーフェイスの下ではとても間抜けな顔をしている


「何で大阪見物頼んだかは知らんけど、どうやら盗み目当てやなさそうやし?」


彼の唇はよく動く
と固まりながら思った


「せやったら大いに大阪を楽しんでもらいたいんが普通やろ?」





いやそれはどうだろう

怪盗に大阪を案内する探偵なんてきっと日本中でアナタだけです、と心の中でツッコむ


「まぁ、確かに今日は盗みが目的ではありません」

「何や、大阪好きなんか?自分」

「いえ、あ、まあ、好きですが…本日はこれを届けに」


そう言ってポケットから星型の花を取り出す

小さな袋に入ったピンク色のソレは
遅い出番のせいか、少しくたびれて見える



「花…?」


なんでそんなモン、と怪訝そうな色が瞳に浮かんだ


「今日は貴方の記念日、ですから貴方にピッタリな花を贈ろうかと」

「ワイの記念日やと?」

『…東京行、20時24分発…』



更に怪訝そうに顔をしかめる服部の言葉を遮るように
駅にアナウンスが響いた

電車を待っていた人々に混じって黄線の側に寄る


「ちょお待て!俺はピンクなんか似合いとぉないぞ!」

慌てて駆けよった服部に腕をつかまれる

何やら勘違いしている様子に苦笑いしながら「そう言う意味ではありませんよ」と諭した

それと同時に電車がホームに滑りこんだ。轟音と風が吹き渡る。


「では、私はこれで」

「ち、ちょお待てって!うわっ!」


途端に動き出した人々に揉まれた拍子に
頭にクエスチョンマークを浮かべた服部の手が離れた


「じゃあな、西の名探偵」


電車に乗り込んでパチリとウインク

タイミングを計ったかのように
プシューと言う音を立ててドアが閉まった


金魚の様に口をパクパクしている彼はきっと
「意味も教えんと渡すなやボケ!」
だとか何とか言ってるんだろう



体は疲れているが
心は割と満足感で充たされていた

なんと言うか、
今日一日でかなり服部平次と言う男を知れた気がする。



同時に、彼へ贈った花は
やはり彼にピッタリだったと再認識した


頼んでもないのに美味いからと
遠くのタコ焼き屋に連れて行ったり

頼んでもないのにせっかくだからと
大阪土産を買ってくれたり。





しかし、頼まれてもいないのに花を贈る自分もまた、
あの花にピッタリなのかもしれない







「……ふう…」




車内で吐いた30回目のため息は

少しの笑いを含んだものだった






(よく喋る楽しい探偵クン)
(貴方の周りに人が集まるワケ、少し解った気がします)











8月10日


ルコウソウ







花言葉











『世話好き』





















「俺のどこが世話好きや!
親切っちゅーんじゃボケェ!!」









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8月10日は服部の日!

キッドを1番苦しめるのは
実は平次の天然っぷりなんじゃないか
っていう妄想


花言葉が全部平ちゃんに似合ってて迷った…!
世話好きは、褒め言葉やで!






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