(暴くのが探偵の仕事ですから)
(逃げるのが怪盗の使命ですので?)










「な…っ…」


時計の針が0時を回った頃


白馬邸のセキュリティは役立たずだと証明された









バルコニーに降り立った一人の怪盗によって







「おめでとうございます、白馬探偵」



にっこりと会釈してみせると

5m程先で
驚愕で見開かれていた
目と口がキッと鋭くなった



「良い度胸じゃないですか、僕の家に忍び込むとは」


確かに

警視総監の息子の家を訪ねる怪盗なんて
世界広しと言えど自分くらいか




いやしかし心外だ




「まぁそう邪険にしないで下さい」


「なんだって?」


「今日は貴方に渡したい物があるんですよ」



ポンッと
いつもならバラが出て来る手から
出したのは小さな植木鉢


つけ加えるなら、
シロツメクサとクローバーが盛りつけられた植木鉢



「……何なんだ一体」




あの白馬探が固まっている

これはなかなか見物かもしれない


笑い出しそうになるのを必死に堪え
ようやく今日のメインを伝えた








「お誕生日おめでとうございます」




…と。
胸に手を当ててまで
バッチリ決めた


はずなのに




「僕は誕生日を教えた覚えはない…やはり君は黒羽君か!!」






「……やっぱそうなりますよネー…」




ある程度予想していた一言が
予想以上に予想通りだったことにため息がでる



「白馬探偵…まずお礼くらいは」

「犯罪者に言う礼など持ち合わせていない!」



ピシャリ

という音が聞こえる程ハッキリ言われた


何だか泣きそうだ



「これで君も終わりですよ」


「証拠も無いのに?」



そう

自分の耳だけで聞いた
という証言なんて
到底証拠にはならない



「大体、私は貴方との約束の為に来たのですよ」


やれやれと肩を竦めて
普段の白馬の真似をする


録音をしておくんだった…!と本気で悔しがっていた白馬が顔を上げた



「約束って…まさか、あの時の」


「おや、覚えていてくれたんですか」




いつかの約束


覚えていたのは正直意外だった






高そうなカーテンが
ヒラリと揺れる





「また来年、と言ったでしょう?」















一年前、8月29日


日本に帰ってきていた白馬が
キッドと対峙していた日でもあった



「観念なさい、キッド」


「――相変わらずしつこいですねぇ…貴方も」



月明かりの逆光でも
苦笑いした事が解る


吹きさらしの屋上では
バラバラと警察のヘリの音が煩い



「今日こそ君を捕まえてみせます」

「それは中森警察の仕事ですよ」



途切れる事のない緊張感



彼としか味わえないこの感じが
僕は嫌いじゃなかった



「僕は…僕は君を絶対に今日捕まえてみせる」



これからの8月29日に

毎回君の事を思い出す為と

誕生パーティーを潰された事の少しの復讐の為に




この執着心が恋心に似ていることに

白馬はまだ気付かない




「ほーう、では、今年は遠慮しときましょうか」


「なっ…!!」



キッドがそう言うと同時に
彼の身体がみるみる内に膨らみ





「それではまた来年」





「ばいび〜v」
という
一瞬の馴染み深い声と共に破裂した


「…くっ…」









結局その日は
最悪な誕生日として思い出に刻まれたのである






もっとも

後日その日が何の日か知った快斗の方は

ニヤリと口端を上げていたが











「あんな最悪な誕生日、忘れるはずがないだろう」


「私にはとても楽しい追いかけっこでした」



もう一度にっこりと笑われる


この白馬探、
あんな思いは二度とゴメンだ



「あいにく今年は
盗むような宝石が展示されなかったので…
…直接来てしまいましたよ」


「ほぉ、直接捕まりに?」


「……つくづく嫌みですね」



彼との距離は5m強

隙をついて仕掛ければ
いけるかもしれない








――って顔してますよ、白馬名探偵?



今にも掴みかかって来そうなオーラに小さく笑う

普段の彼らしからぬ行動だが

余程昨年の誕生日で恨みを買ってしまったのだろうか


今からすることを思うと
来年の今日は本当に飛びかかって来そうだなと考えた




「…では用件も伝えたので、そろそろ帰りましょうか」


「何っ!?」


慌てた白馬が走りだす




「それではまた来年」




瞬間、
屋根に仕掛けてあったパラグライダーのワイヤーを引く




「ばいび〜v」




引かれる瞬間最後に見えたあの悔しそうな顔は


去り際に窓枠に置いた植木鉢と
添えられたカードを見て
どんな風に変わるんだろう



















―――――――――

勇敢なる白馬探偵へ



敬意を表して贈ります



貴方の誕生を祝う花は
このシロツメクサとクローバー



幸福の象徴とされているこの植物ですが


もうひとつの花言葉は









『約束』




だそうですよ


ご存知でしたか?




怪盗キッド




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






=================

無駄に長いんだってば


白馬とキッドは
ずっと良い好敵手だったら良いなあ

ちょっとK←白
的な、ねっ!
………………ねっ!


ウチにカッコイイ白馬は居ません


うめこうめ

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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