工藤新一の人生っていうものは

どちらかと言えばとても不幸寄りだったのかもしれない





だって


両親には滅多に会えないし

小学生になるし

殺されそうになる事なんて多々だし



決してありふれた人生では無かったと
胸を張って言える




まぁそんな事を自慢する場も機会も無く

俺はいつもの様に校門の前に立っていた





「おまたせー新一!」






とびきりの笑顔を向け駆けてくる恋人


黒羽快斗が通う江古田の校門に立っていた


















「いやぁあのハゲが今日もハゲでよー」



「いきなり生えてたら、ヅラだろうが」



「それもそーだけどさー。眩しいんだよ…こう、反射して」



そう言いながらビッと夕日を指す快斗は
迷惑していながらもとても楽しそうだ



こんな他愛もない会話を繰り広げるなんて、1年前までは思いもしなかった



怪盗キッドとして活躍していたコイツと、探偵の俺が

高校教師の頭皮について話すなんて誰が思うだろうか



それでも確かに俺達の距離は縮まって
普通の恋人らしい事もするようになった


歩いていても友達か双子に見られる事も、俺にとっては心地よい。
快斗は不満がっていたけど。









「お!」







俺が回想にふけり終えたのと

快斗が嬉しそうに叫んだのはほぼ同時だった



声につられて前を見ると

歩道橋の真ん中にたむろしていた何人かの男子高校生もこちらを見た



快斗と同じようにパッと顔を輝かせて手を振ってくる



誰だ?と聞く前に、快斗は答えてくれた




「あいつら俺の中学の時のダチなんだ。
ちょっと話してきていい?」




おやつ食べていい?
と聞く子供のようにわくわくとした顔で問われると
嫌とは言えない



別に反対する理由もなく「ああ」と短く頷いた




群れに飛び込んだ快斗は子供のようにはしゃぎ

彼らもまた声をワントーン大きくしてはしゃいでいる



なんとなく肩が重くなった気がして
歩道橋の鉄を踏む膝をおって腰を下ろした



ここから見える夕日は他のどこで見るよりも壮大で感慨深い



その為か、女子達の間では「ここで告白すると結ばれる」
という噂もたっている



ただの情緒豊かな絶景と
雰囲気によるものではないか、なんて思うけど



蘭や園子に言ったらまず罵倒されるので胸にしまっておく





ちらりと快斗達を見ると

何やら予想外にこちらを見てヒソヒソと話していた




「…………?」





ヒソヒソ話をされて、良い気がする人の方が稀だ



俺も例外なく何だか気分が悪くなり
困った顔で笑う快斗から目を逸らした



夕日がかけ降りるのはとても早く

快斗達の別れの挨拶が聞こえたのは、夕日が遠い山に隠れ終える時だった




「わりぃ新一!長くなって!」



「いいよ。久しぶりだったんだろ?」




旧友と近況を話しあうにはむしろ短かったくらいだと思う



一瞬

ヒソヒソ話の事を尋ねようと思ったが

何だか自分が怖くなったので口には出せなかった




いや、だが顔に出ていたのかもしれない



なんてったって、俺はコイツほどポーカーフェイスが上手くはない



そしてコイツは、人の表情を見破る能力にも長けているようだ









「あいつらがね、新一の事紹介しろーって言ってたんだよ」




「………は?」
今まさに階段を降りようとしていた足が止まる



二段先に降りていた快斗が振り返って笑う





「新一がキレイだったから、アド教えろとか、オレらを紹介しろとか。
相変わらずうるせーのなんのって」




俺が聞きたかった事

”さっき何話してたんだ?”

という問いに忠実に答えてくれる








「…いやいやいや、あいつらは…その、俺らと違って」



「ソーイウ趣向じゃなくても振り向かせる魅力が新一にはあるの」







お父さんのような口ぶりで
うんうんと頷く快斗に開いた口が閉じない




先程のやり取りは、どうやら俺が心配した類の事ではないらしい


「久々に会ったのにそれかよ」とごちる快斗が嘘をついてるようには思えない






さらに快斗は俺の表情を読む






「もちろん、新一は俺の恋人だって言ったけどね」









「……驚いてただろ、アイツら」




まーねー、と軽く笑って
グイッと俺の手をひいた





同性と付き合っている事をカミングアウトするのは難しい


なんでも告白というものは難しいものだ


旧友なら、なおさらだ


多少良いカッコして、接したいじゃないか






それでも快斗は堂々と俺との関係を暴露して、守った


気の抜けた息が喉から出た









「新一」









沈んだ夕日のせいで快斗の顔はあまり見えなかったけど



それでも近づいてくる顔が
幸せそうに微笑んでいたのは確かだ





同時に、俺もまたそうだったのも確かだ






















工藤新一の人生っていうものは

どちらかと言えばとても幸せなのかもしれない



軽く口を触れ合わせながらそう思った










だってこんなにも
俺はコイツに愛されているんだから















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何だこれは!知らん!

工藤の日おめでとう!^ω^



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