毎年ばあやがケーキを焼いてくれた



アーモンドをトッピングしただけの
シンプルなシフォンケーキ


甘いものがそんなに得意でない僕にとって
甘さ控えめのそれはちょうど良く

いつも1人で平らげた






そう、1人で






ケーキを切り分ける必要は無い


だって食卓を囲む人が居ないから



相変わらず多忙な僕の両親は
時に誕生日さえも顔を見せれない


それは白馬家において当たり前な事だったし、
僕自身それを気に病んだ事は無かった



誕生ケーキは1人で食べる物



そう思ったまま、僕は今日もその日を迎えた



イギリスから遠く離れた、この日本で。





「はよー白馬」


「おはよう黒羽君」



8月29日。

今日もまたいつも通りの学校が始まる


6時間授業を受けて、家に帰ってホームズ本を読み、寝る


そこに「ばあやのケーキ」という
ちょっぴり幸せな要素が加わるだけだ



黒羽君が席に着くとほぼ同時に、彼の幼馴染が彼に耳打ちした

彼らは本当に仲がいい



しばらく普段通りにぎゃあぎゃあと騒いだ後

男の方がぶつぶつと呟きながらこちらへやってきた



「ん?」


「…あー…白馬オメー
今日用事ある?」




珍しい。


僕が彼に話しかける事はあっても、黒羽君から話しかけてくるとは。



「用事かい…別にホームズの本を読むくらいだが」



「って事は、無いんだな?」



「……………まあ」




何だか納得いかないが、一応そういう事にしておこう




どうしてだいと問いかけると彼は簡潔にも
「とりあえず今日19時に俺の家集合だから」
とだけ残して去っていった




「……?」




なんなんだ一体



今日はばあやが待っているというのに、
少し遅くなると連絡をいけなければいけない


1年ぶりのシフォンケーキの味に想いを馳せつつ席についた





















18時55分。時間5分前ジャスト。



紳士としては当たり前だな、と思いながらチャイムを鳴らす


にしても突然集合だなんて黒羽君は何を考えてるか解らない


というかそもそも、僕は誰が来るのかさえ知らないのだ。

そう思うとあまりに無責任な誘いではないか。



少し募る不満に文句を言っているとインターフォンが繋がった




『は、早かったな白馬』

「…そうかい?」

先にも言ったが、5分前は紳士として当たり前だ。女性相手なら10分前に来てもおかしくない。

インターフォンの向こうは何だか慌ただしく感じる




『だからアイツ来るの早いって言っただろ!』



『快斗が普段ウソツキだから皆信じてくれなかったのよバ快斗!』



『うるせーアホ子!』




「……えっと、出直そうかい?」




何やら迷惑をかけてしまった様なので、一応聞いてみる

案の定相手からは断られたが、
結局はぐらかされ続け

黒羽君が扉を開けたのはそれから5分以上経った時だった




「悪ぃなー待たせて」



手招きする黒羽君の顔は、中の光と逆光になっていて見えない

悪戯好きの彼の事だ。何の仕掛けがあってもおかしくない




その予想は当たり、
僕が黒羽邸に一歩足を踏み入れた瞬間

鼓膜を強く揺らす乾いた音が響いた



同時に煙幕が広がって何も見えない





(何なんだ一体…)





何かを言おうとしても
先程までそこに居た黒羽君の姿はもう無いし


煙幕が徐々に晴れるのを待つ



徐々に、視界が鮮明になって、いく


「どういうつもりだい黒羽く」


















「「「ハッピーバースデートゥーユー!」」」








視界が完全に鮮明になる前に、それは聴こえた




お馴染みの、
知らない人は居ないであろうバースディソング



それも1人2人では無い



いつの間にか
僕を取り囲むようにして誰かが立っているのが解った


女の声、男の声、
そして何だか音を盛大に外している声もある



混乱している頭に答えを突きつけるように、歌い終わるタイミングで煙幕が収まった


締めはもちろん
「Happy Birthday dear 探」という言葉で。





「…………」





人間は本当に驚くと声が出なくなるのだと思う




実際目の前に居る面々を見ても、何も声を出す事が出来ない




「なんや、リアクションうっすいなぁー自分」



「…服部君?」





探偵甲子園で知り合った色黒の彼まで、どうして。

「きっと驚きすぎて声が出ないんだよ。
うるさい平次兄ちゃんと違って」



僕も一目置く小学生も来ている。

…声からして、先程の音痴な歌声は彼だろうか




「私の美声は耳にしっかり残ってるわよね?白馬君」



「こ、小泉さん。もちろんですよ」




黒羽君に中森さんに小泉さん、
このいつものメンツに加えて
コナン君と服部君



総勢5人のメンバーが駆けつけてくれたのだ。僕の誕生を祝う為に




きっと計画していたんだろう、何日も前から。

胸にじわりとしたものが溢れ出す



すると黒羽君と中森さんが何かを持って近づいてきた




「ほら、コレ。
わざわざ持ってきてくれたんだぜ?」




「……これは」




そう言って彼が見せたのは、
あのいつものシフォンケーキ


薄切りにしたピーナッツがちりばめられた。


紛れも無く




「…ばあやの…」





いつもと同じ手作りらしさの残るソレを見た途端
らしくなく目の奥が熱くなってきて、慌てて拭う



「ばーさんに誕生会するって言ったらさ、
ケーキは私が作っても良いですかだってよ」


「すーっごく嬉しそうにしてたよおばあさん!」



そうだろう。
毎年1人で誕生日を迎えていた少年を見て
彼女が何を思っていたか今は解る



誕生日がこんなに楽しい事だと知ってしまえば

1人の誕生会はあまりに悲しい事に思えるから






「…ありがとう」




少しだけ震えた声はここに居るみんなと
ばあやに届いたと信じたい



うつむいていると、
小さい身体が駆け寄ってきて
「おめでとう、白馬のにーちゃん」
と声をかけてくれた



色黒の高校生も
「まぁ誰かが生まれるっちゅーんは良いモンやからな」
と言ってくれた


彼は多分、僕が思っている以上に大人だ



まぁ照れるようにすぐに背中を向けてしまう所はまだ子供だけれど





誤魔化す様に咳払いして、
彼は小泉さんが切り分けたケーキを皿に乗せ始めた

すぐに黒羽君が口を挟む




「あ、1番でっかいの俺な服部」


「アホぬかせ。黒羽は1番ちっこいのでええわ」


「あら、ここは切り分けた私が大きいのでどうかしら」


「…紅子ちゃん…」




どうやら主役の僕が1番大きいケーキになる事はないらしい。


そこがまた彼ららしくて笑えてくる




結局、さりげなく盗むように1番大きいケーキを取ったのは、
1番小さな手だった



そっとその皿を渡してくれるコナン君に
「いいのかい?」と聞くと

「いいのいいの主役なんだから」
とにっこり。

…やはりこの子はただの小学生では無い気がする



共犯者めいた笑みを2人で浮かべていると
なぜか仕切り役となっている服部君の
相変わらず大きい声が響いた
「ほな、皆皿行ったかー?」



「行ってる行ってる!
なー早く食おうぜ腹減った!」


「調子に乗ってお昼ご飯抜くからでしょバ快斗!」


「あらあら、随分子供じみた事するのね黒羽君」


「ほんとだー。
僕より子供みたいだね!」


「…ニャロウ」




こんなに騒がしい誕生日は初めてだ。
思わず笑ってしまう



じゃあ、と示し合わす様に皆と目配せするのが初体験で

何だかとても楽しい





「「「いただきまーす!」」」




大きな合図の後、ぱくりと1口食べる



何だろう、

このケーキはこんなにも、
こんなにも美味しかっただろうか







(…不思議だ)







いつもの5分の1の大きさになった自分のケーキは

今までで1番
心を満腹にしてくれた


















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みんなで食べると美味しいね^ω^!
さぐるん誕生日おめでとう!

愛され白馬が書きたくて。
白馬可愛いよ白馬ごろんごろん



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