「哀ちゃん!今日って何の日か知ってる!?」



「……………」





教室に入るなり
意気揚々と問いかけてきた吉田さんには悪いけれど、知ってるわ。



門で円谷君に問われ
階段で小嶋君に聞かれたもの。




8月18日で”ヤイバーの日”だなんて

アナタ達ちょっと博士に似てきてない?







「…知らないわ」




それでも吉田さんの笑顔を崩せなくて、
知らないフリをする


予想通り彼女からは
「仮面ヤイバーの日なんだよ」
と楽しそうな声が返ってきた



「それでね、今夜は
哀ちゃんと博士のおウチで仮面ヤイバーごっこしに行く事になったんだ!」



「…そう」



博士からは何も聞いてなかった。


まぁこの子達を喜ばせるつもりで昨夜にでも伝えたのだろう。


ヤイバーごっこと言う物がどういうものか知らないが
今夜は賑やかになりそうだ




「あ、コナン君だ!
コナン君も誘おっと!」



ぱっと華やかな顔をして江戸川君に耳打ちする吉田さん


中身17歳の彼は、
何だかんだ言って参加してしまうのだろう



その気にさせてしまう何かを、彼女達は持っている


それが自分にはとうに失われている
「無邪気さ」という事には

また知らないフリをする



案の定彼は困ったように笑いながらも承諾したみたいだった



隣に座った彼に
「私はしないわよ」
と言うと

「お前はしなくて良いんだよ」
とニカッと笑われた



「……?」




珍しく少年じみた笑みを浮かべる少年を不思議に思いつつ
鳴ったチャイムに急かされた。

















日が沈む頃の阿笠邸



机の上には、予想通りというか

お菓子とジュースと仮面ヤイバーのDVDが所狭しと並べられている




「ジャガイモ男爵パーンチ!!」


「こっちはニンジンバスタードです!」


「甘いわよ!これでもくらいなさい!
ヤイバーキーック!!!」



「…やいばーぱーんち」




目の前の少女1人と少年3人は、
思い思いの武器を持って
よく解らない技名を叫んでいた。


ああ、1人の少年は乾いた笑みしか浮かばないみたいだけど。



軽く笑ってお気に入りの雑誌を読む


彼らの喧騒も、ちょうど良いBGMになりそうだ



「みんな楽しそうじゃのー」



「あ、博士!」



「例のアレですね!」



奥から出てきた博士が大きな箱を持ってきた


それを見つけた探偵団は、何やら
”待ってました”と言わんばかりに駆け寄っていく


普段は眺望している江戸川君まで行ったから、自然とつられて視線が動いた



こそこそと4人が集まって箱を漁っている

これは私の勝手な推測だが
きっと博士が仮面ヤイバーの衣装でも用意したのだろう



本当に甘いんだから、とため息を落としてまた雑誌に視線を落とす







「灰原」






そんな物着るなんて随分な趣味ね。

江戸川君の呼び掛けに振り向いて、
ちょっとした皮肉を言おうとした





が、それは叶わなかった







「…………え?」


と零すと同時に、鼓膜を揺らす大音量が響いた

独特なパンッと言うクラッカー音に、思わず肩が跳ねる








「ハッピーバースデー!哀ちゃん!」






もう役目を終えたクラッカーを吉田さん達が持っている。博士まで。



円谷君の手には大きなカード。

”誕生日おめでとうございます灰原さん”

と書かれている



小嶋君が持ってるのは……きっと粘土で作ったうなぎと私だろうか





「…誕生日、って」



私の誕生日を教えた覚えは無いし
何より私自身が誕生日なんて覚えてない


誰にも祝われていなければ
誕生日さえも忘れていってしまうのだ





「オメー自分の誕生日知らねぇーんだろ?
バッカだなー」


「元太君は黙ってて下さい。
自分だって去年忘れてたじゃないですか!」


「え、あ、そうだっけ?」


「だから、今日は”はいばら”の日なんだし、今日を哀ちゃんの誕生日にしようよ!」






開いた口が閉まらない




驚きが一通り引いたら、力が抜けるように笑ってしまう



まさか人の誕生日まで決めてしまうとは思わなかった


子供は偶に大人の想像を遥かに超える




呆気に取られていると、近づいてきた江戸川君が耳打ちした




「アイツらが思いついて、昨日博士に言ったらしいぜ?
ヤイバーと灰原の日をかねてパーティがしたいって」



「……そう」




眉を上げて小さく笑う


私の笑顔が見れた事に満足したのか、3人はさっそく
やはり博士によって用意されていたヤイバー衣装に着替えている



会話を聞くと、どうにも彼らオリジナルシナリオの
「はいばら誕生記念の劇」を行うらしい。





「哀ちゃんの為に歩美が監督したんだよ!」



「ぼ、僕は小道具とセリフを!」



「俺はそういうのむいてねぇから、これやるよ!」



小嶋君に誕生日プレゼントとして渡されたのは予想通り

あの粘土で作られたウナギと私だった




「あら、素敵じゃない」




ヘヘッと照れたように笑う顔を見て、また椅子に座った



参加しないのか、江戸川君も隣に腰を下ろす




「あなたからは貰えないのかしら?」



「俺からのプレゼントは組織壊滅って事で頼む」



「…そうね、楽しみにしてるわ」



フッと同時に笑って彼らの幕が上がるのを待つ



けどどうやらそれは私だけで良かったみたい。





「ちょっとコナン君!何やってるんですか!」



「え?」



「オメーも出るに決まってんだろ!」


「仲間のお祝いは、探偵団全員でしなくちゃダメなんだよ!」



「え!?お、おい!」




小学生3人に無理やり連れていかれる高校生を見る機会なんてそうそう無い


どうやら自分が出演する真実を
あの探偵は見破れなかったらしい。残念ね。





(…仲間…)





博士が電気を消す


元気良く3人組みが出てきて
少し遅れてまだ着替え途中の江戸川君がよたよたと出てくる



意外に似合ってるわよ。と視線で伝えれば
バーローと視線で返ってきた

暗闇の中「仲間、ね。」と小さく呟く

最初は探偵団なんてゴッコだと思っていた



けれどこの子達は何にだって真剣で、
楽しんで、
真っ直ぐに没頭している



それはもうゴッコでは無く

この子達にとっては仕事であって趣味であって人生なんだろう




「仲間」と「一員」は違う




組織に居た人達は仲間では無く

単なる他人の集まりだった





今目の前にいる彼女達が
私を「仲間」と呼んでくれるのなら



私は素直に
初めて経験する”仲間”という立場に甘えれば良い



















「ねぇ、やっぱり私も混ぜてくれない?」
















ただの小学生、灰原哀として。
















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8月18日

灰原の日おめでとう哀ちゃん^^!
勝手に誕生日決めてしまったん
原作で出てきたらどうしよう



劇は結局灰原さんが主役で進められます^ω^
みんなでやると楽しいよ!


哀ちゃんには探偵団に癒されて幸せになってほしいな^o^



そしてこの夜
Flower to U!の8月18日になるのかも!




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