言われた瞬間


多分、鼓動は止まってた


























「いやー!やっぱあの人の手品は見応えあるよなー!」





お昼を少し回った頃


隣で子供の様に語る快斗に「そうだな」と笑う



こっそり印をつけた家のカレンダーによると

今日は6月21日





恋人である黒羽快斗の誕生日だ






今だ興奮冷めやらぬ様子の快斗を見て


快斗の好きなマジシャンのショーの観覧

と言うプレゼントは間違ってなかった、
と安堵する




なんせ自分へのプレゼントがロンドン旅行だったものだから

こんなささやかな贈り物で良いのだろうか


と内心不安だったのだ







「ほんとありがとな新一!」



「…ん」




それでもこうやって
快斗が嬉しそうに笑ってくれるならそれで良い



口が裂けても言ってやらないが
こいつの笑顔は、
何故かひどく安心する






(って…それじゃただの女子中学生じゃねーか俺!)





頭の中に
「○○君が喜んでくれるなら…」
と言うセリフと


やたら少女漫画チックな絵が浮かんで

慌てて頭を左右に振る



飯でも食べるか、と
聞かれてもつい首を振ってしまって

もはや意味が解らない





慌てて否定する俺を見て
今度は可笑しそうに笑った快斗が

「魚以外なら何でも良いね」

と言ったから



連れて行きたい”あの場所”に
早く着きたいという期待に胸を膨らませながら


「寿司でも食うか」


と笑った

































雲は無い、梅雨には珍しい澄んだ夜




他愛もない話をしながら
4つの足はある場所に向かっている






「なあ新一?
そろそろどこ行くか教えてくんない?」





「もうちょっとで解っから待ってろ」






道は江古田町の大通り




しかしあえて、江古田に詳しい快斗に行き先は言わず
ただ腕を引っ張る





マジックショー、

ちょっと高めのレストラン、

人気店で買ったショートケーキ





そんなまっとうなバースデーの最後に

どうしても付け加えたかった場所



姿の見えないコイツを
初めて追いかけたあの場所






「お…見えてきたぞ」



「………ココ」








記憶を辿って、最後の曲がり角を曲がった時


二人を待っていたのは茶色の長い時計台

カッコつければ、


”2人が初めて出会った場所”


とでも言うのだろうか。




淀みの無い夜空に照らし出される姿は幻想的で


芸術家肌ではない俺でも言葉を失った



隣からも、小さく感嘆した
「懐かしい」と言う声が聞こえた








「…おめでとな、快斗」






結局今日初となるこの言葉を言えたのも

夜の暗闇とこの雰囲気のおかげかもしれない







「…ありがとう」





こっちを見た快斗の笑顔が心なしか大人に見えて、

慌てて顔を逸らす




顔が、熱い





周りを見れば、
シーズンではなくてもこの景観を見に来るカップルは多いらしく

広場にはたくさんの人が居た




それでも満員には程遠くて

”あの日”はやはり
観客が多かったんだと実感する





「あの日はいきなり警察の動きが良かったから
すっげービックリしたんだよなぁ」






まさか、こんな美人なジョーカーが紛れ込んでたとはね


と笑う快斗に
「バーロ」とだけ返す



「もうちょっとで捕まえられるトコだったのによ」


「私のハートは
とっくに貴方に捕まってますけどね、名探偵」



「…バーロ」





今度は、少し蹴りもいれた






結局あの日はお互い名前も知らず終いだった事実は自分が光の魔人と呼ばれていた事


この時計台が壊されなかった経緯





そんな話に華を咲かせてしまえば

気づけば文字盤の針は21時を指している




ビッグ・ベンを見た時も感動に身を震わせたが


こちらには
何物にも代えれない思い出が詰まっていた。



何時間だって居れる気さえする。












「なあ新一?」



「んー…?」






あの時の思い出と

どこか哀愁の漂う景色に目を奪われていると

徐に快斗が名前を呼んだ








「…もう一個だけ、
新一から貰いたい物があるんだけど」



「…?何だよ?」







突然の提案に思わず横顔を見ても
暗闇が表情の邪魔をする



それでも
纏う雰囲気は

いつもの快斗とは少し違って、口をつぐむ








「…………」



「…………?」



何を考えているのだろう



時計台を見つめる瞳はひどく真剣で

人よりは長けている観察力も通じない








「…いちの…」


「え?」




と思ったら

何か言ったか、と口に出すよりも早く
今度はいつもの笑顔がこちらに振り向く







その顔を見た時





今から、何か、



何か大事な事が起きる



と直感したのは
俺が探偵だからだろうか








音が消えて、声が残る




















「新一の苗字を、俺に下さい」




















言われた瞬間





多分、鼓動は止まってた










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