かたつむりが懸命に這っている




そんな様子を窓越しに見つめ
雨降んねーかな、と小さく呟いた



大きすぎる窓はいつもの探偵事務所の物ではなくて、

ここが今日宿泊するホテルだと突き付けてくる





(あーあ…せっかくアイツの予告日なのによ…)





旅行券が当たったから、と

拒否も虚しく
蘭達に連れて来られたこの場所から200km離れた米花町では
今夜怪盗KIDが現れる


新聞の予告では19時には現れるから
時間で言えばあと1時間弱だろうか。





「…………」





この旅行の事はキッドには伝えているが


自分が居ない現場で
アイツが他の奴に追われるのが気に喰わなくて



何だか胸の1番奥がモヤモヤする





「………はあ…」






雨でも降ってほしい





アイツの”仕事”を邪魔したい気持ちは一切無いが、


雨でも降ったら
アイツは空を飛べずに延期してくれるかもしれない

…まぁ、宝石の持ち主である次郎吉さんが許してくれれば、だが。








「ほら、優くんお鼻かみなさい」



「んー」







ロビーの机に突っ伏したまま
曇った空を眺めていると



耳に親子の声と、盛大に鼻をかむ音が聞こえてきた






(…ティッシュか…)





視界に入ったのは

丁寧にも1机毎に配置されているティッシュ箱




何の気無しに手に取っては
一定のリズムで引き抜く





もしかすると
身体と共に、心まで少し退行したのかもしれない








そうじゃなきゃ、
てるてる坊主なんて作るのは何年ぶりだろう




と言っても、雨乞い用なのだけど。







10枚くらい引き抜いて、適当に玉を作る



それを1枚でふんわりと包みこんで

細く捩ったもう1枚で縛れば完成だ






(あ…そうだ)






のっぺらぼうの白坊主を見て、
ポケットからペンを取り出す




そして右目にモノクルを


身体にはヒラヒラを利用してマントを着させれば



あっという間に怪盗風味になった








「…ってぇ!何やってんだよ俺は!!」







自分の余りにも子供っぽい行動に
場所を忘れて叫ぶ





羞恥と何かの喪失感で、穴を掘りたい。

そして一生そこで暮らしたい。





せめてもの救いは、アイツ自身にこの事がバレていないこと




目の前の恥ずかしい作品を握りしめてじっと見つめる






やはり、らしくない。



証拠隠滅よろしく
何処か見つからない場所へ捨てよう、

そう立ち上がった時




右のポケットが小さく震えた



慌てて小さな歩幅で自動ドアをくぐり抜ける











「ああ、もしもし?」






『――あ、名探偵?』







あ、今何時?
みたいな口調で話す声は紛れも無い怪盗の物で



息が止まるかと思った






「な、何だよいきなり!」



『いやちょっと声聞きたいなーって思って…何怒ってんだ?』




「怒ってねーよ!」



『…や、怒ってるじゃん』






ビックリしてつい声を荒げてしまっただけだと伝えたが

あまり納得してないらしい







『まーいっか。ちょっと心配してかけただけだし』




「…心配?」




『ああ。
名探偵サンがまた事件に巻き込まれてないかってな』



「…バーロ、余計なお世話だ」




低い声でそう伝えると
明るい笑い声が聞こえた




今だに左手にあるてるてる坊主が
恥ずかしくて仕方ない




背景にテレビの音が聞こえるから、
奴はどうやらまだ家から出発してないようだ








「んな事言ってる暇があったら
とっとと宝石確かめてきやがれ」




見えていないのに、
赤い顔を隠したくなって逸らす






『残念ながら
まだ正装が整ってないんだなー…と
あ、う、おお!?』




すると怪盗の焦った声がした

途端に受話器からガタガタとした騒音



それから数秒間
耳に痛い程の静寂が流れた





「おい?どうしたんだよ!おい!」





まさか、と
一瞬嫌な予感が頭を掠める




しかし聞こえてきたのは
変わらない暢気な声だった







『いやー、洗濯して干してたシルクハット取ろうとしたら
いきなりベランダの手摺り外れるんだもん。
そろそろボロかなぁ』






「…オメーあの帽子洗濯してたのかよ」






大丈夫か、より先に
ついその言葉が出てしまった






いやそりゃ衛生的にそうなんだろうけど、
何だか納得出来ない



案の定、怪盗からも
『え?そこなの?』
と返された







「で?大丈夫なのか?」





『ん。ちょうどマントが引っ掛かったみたいだから。
すぐ降りれるよ』





少しの安心感を覚えてため息をつく



同時に
天下の大泥棒が
自宅のベランダでぶら下がってる光景を想像すると可笑しかった





「馬鹿なことしてんじゃねぇよ、コソ泥さん」





からかうように笑うけれど、次の一言で

小さな身体は固まってしまった










「ホント、これじゃ人間てるてる坊主だよな〜」



「………っ!」






それからは、
今だに困っている電話越しの怪盗の声は



心臓が止まりかけたコナンには届いていなかったらしい。








左手の怪盗風てるてる坊主が
少しだけ笑ったように見えた





















=================



そしてやっぱり
このてるてる坊主は
こっそり部屋に持ち帰って
逆さ吊りにするコナン

→結局雨が降って怪盗行けず

→「今日厄日かなぁ」とコナンに電話

→コナン複雑で何も言えない



…ってとこまで書きたかった)^o^(

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