加えるなら、満月の夜





今の所静かな屋上に

不釣り合いなリップ音が響く






「っ…き、キッド…んっ…」





ちゅっ、ちゅっとバードキスをされて
コナンの小さな唇は快感に震えていた




「ん……」




今自分を壁に押し付けている怪盗は

何を隠そう

つい数分前まで下で盗みを働いて

屋上まで追いかけてきた俺にいきなり口づけた




ここだけの話だが
何とこれで五回目だ





「っは……こ…困る…って」




ようやくキス攻撃が止んだので目を開ける





「何でだ?…イヤか?」




月明かりの逆光に浮かぶキッドの顔には
優しい笑みの中に少しの不安が見えて


心臓がドキリと高鳴る





「ち、違…イヤとかじゃなくて…んっ」




また軽くキスされる



もうこれで何回目かも解らない逢瀬、キス



かといって「好き」と言われた事は無いし
俺だってその感情はある




それでも奴が想いを言わず
俺が奴に聞かないのは



その二文字が禁句だと解っているから




この逢瀬の終止符だと
お互いに解っているからだ






怪盗としての使命と

探偵としての使命が

キスという形でぶつかり合う







「その、困るっ…ていうか」







何で困る?




嫌だから?







いや、



嫌じゃないから困るのだ





口づけされながら吃っていると

月下の奇術師は小さく吹き出した




「キスされて、困るって何だよ」


「いや、その……あ」



サイレンの音が遠くから聞こえて


今日の逢瀬の終わりを知らせる





怪盗は名残惜しそうにもう一度口づけて

ちぇ、と悪態づいて立ち上がった








「じゃあな、名探偵」





ぽんぽんと頭を撫でられて
反射的に目を閉じる




その後で離れて行く手に

今までに無い寂しさを感じたのは何故だろう






いつもよりキスの最中に
色々な事を考えてしまったからだろうか



それとも日ごとに
コイツへの想いが大きくなっているからだろうか





きっとその両方の理由に突き動かされて



自分でも信じられない力で腕を引っ張った








そして一瞬






触れるだけのキスをする






唇と唇が触れ合って
初めての俺からの行動に目を見開く顔が近い








「………待ってっから」






唇を離して
サイレンの音に紛れ込む様に呟く



けれどその言葉は
きちんとキッドの耳に届いたようだ









「…なるべく早く
終わらせるからな」







俺には解らない覚悟を瞳に浮かべて


いつものように飛んで行く白い鳥



いつもと違う部分は
多分自分と奴の心の距離






『なるべく早く終わらせる』





その言葉が指すのは
怪盗としての使命




とっとと探しだして
早く俺の前に現れろ




その時は腐る程
好きでも何でも言ってやる







夜の闇に向かって呟く








「…待ってっからな」






キッドではない
素顔のお前を




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