「あらぁ。ユキノちゃんじゃなぁい?」

「お。珍しいな」



 一日中を家の中で過ごすのは、もう飽き飽きした頃だった。ユキノは熱も少し下がり、積も落ち着いた昼下がり、久しぶりに建物の外に出た。右を見ても左を見ても、同じような建物が続く。ユキノはいつも、迷ってしまわないようにカレルの家に目印を付け、あまり遠くには行かないようにしていた。



「あ、…えっと、ティントレットさんとドナテルロさん?」

「随分大きくなったのねぇ。あの時以来見てなかったけどぉ」

「あいつが隠してるんだと思ってたぜ。それか食っちゃったか。あ、そだ。遊びに行こうか」

「え?」



 突然のドナテルロの提案に、ユキノは驚く。けれど、カレルの友達の二人に遊んでもらうなど、滅多にある事ではない上に、ユキノは生まれてから、あまり遊んだ事がなかった。ドナテルロの誘いは甘い蜜のように、惹かれるものがあった。



「いいじゃなぁい。どうせ、カレルたんはどこにも連れていってくれないんでしょぉ?」



 ティントレットは相変わらず、美女然としていて、これが男にもなれるというのだから驚きだった。是非、その過程を見てみたいと思ったが、少し怖くもあったので言うのは控えた。二人の悪魔に連れられて、悪魔の里を見る。彼らの移動手段はもっぱら飛ぶ事で、最初に来た時、カレルが歩いていたのが不思議だった。



「カレルも飛べるのにね」



 ユキノを抱えても楽々と。なのにあの時は、しばらく掛かったにも関わらず、彼は歩いていた。ドナテルロは少し考えて、首をかしげた。



「そういえばそうだな。あいつ、まじで変わってんな」

「そのミステリアスな所が、いいんじゃなぁい」

「やっぱ、人間との混血だと頭の作りが違うのかな」

「え?」



 ドナテルロの発言に、またユキノは驚かされた。人間との混血。カレルの話をしていたのだから、カレルが、という事で間違いないだろう。そんな話はこれまで一度も聞いた事がなかった。そして、ユキノはカレルの事を、まったく知らない事に気がついた。もうここに来て四年になるというのに。



「混血って…ハーフって事ですよね?」

「ふふ。そぉなのよ。でもね、ユキノちゃん、悪魔と人間の子供でも、完全に人間か、完全に悪魔しか生まれないのよぉ」

「そ。子供自体めっちゃ珍しいけどな」



 二人は他愛もない話をしながら、ユキノをいろんな所に連れていってくれた。人間が珍しいのか、人里の話をすると驚かれる事が多かった。しかし、辺りが夕暮れに変わる頃、ユキノの身体はもう限界を訴えていた。



「…っケホ」

「見て! ユキノ。あれがこの魔の里で一番美味しい木の実よ」

「いや、あっちを見ろよ。」



 ユキノは楽しかったけれど、段々視界がぼやけてくるんがわかった。二人はそんな様子に気づいているのかいないのか、とても楽しそうにユキノに話しかける。そして、とうとうユキノは意識を飛ばしてしまった。




-†-†-†-




「あ、いたわ」

「まじだ。カレル」



 カレルは丁度、彼の家から出て来た所だった。いつものふてぶてしい様子が影を潜め、焦っているようにも見える。



「何を慌てているのぉ?」

「別に」

「あぁんもう、連れない。そんなに急いで行か無くったっていいじゃなぁい」



 絡みつくようなティントレットを心底うざったそうに睨みつけて、カレルは羽を広げた。



「何か探し物か?」

「まぁね」

「ユキノなら森だぜ」

「あ?」



 カレルは初めて、二人の方を見た。彼の二つの色の瞳が、順に二人の悪魔に注がれる。ティントレットもドナテルロも、それまでのちゃらけた態度を正してしまう程の迫力だった。



「いや、こういうの、優しさって言うだろ? 人間ならどうすっか、俺等なりに考えたんだ」

「そうよぉ。森林浴? っていうの、させたらユキノも元気になるかしらってぇ」



 カレルは深いため息を吐いた。彼らは優しさを学ぼうとしている。かつてそれを彼らに与え教えた、シルヴィアのようになろうとしている。物好きとしか言いようがないが、変わり者でいえばカレルだって同じ穴のむじなだ。



「案内してくれる」



 カレルが言うと、二人は顔を見合わせてから頷いた。






- 31 -


BACK INDEX NEXT






maya top 




Back to Top

(C)owned by maya,Ren,Natsume,Tsukasa.
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -