眠れない夜は ホットミルクを 眠れない夜には 子守唄を 悲しい夜は 物語を聞かせて 悲しい夜には そっと抱きしめて あなたがいたなら 当たり前だったかもしれないけれど 今私がここにいる それだけでも それだけで 奇跡と呼べるから - 結婚前夜 - カレルが来たのは、一ヶ月くらい前の事だっただろうか。ユキノは熱で 「大丈夫ですか? 明日、少しでもよくなるといいのですが…」 今日も、耳元でラフの声がしていた。何かを話しているようだったが、ユキノは聞いていなかった。 熱い 「…ユキノさん? 何を考えているのですか?」 ラフの台詞で、ユキノはラフの方を見た。彼は眉間にしわを寄せ、少し不機嫌そうだった。ユキノがあまりにも彼の話を聞いていなかったので、ついに怒らせてしまったかと、少し焦る。 「あ……す…みません」 久しぶりに出した声は掠れて、とても弱々しかった。ラフは表情を崩し、またいつものように笑う。 「あ、すみません。怒っているんじゃないですよ。ただ、何を考えているのか、ユキノさんは話して下さらないので」 まさか、カレルの事を――悪魔の事を考えていた等と正直に答えられるはずもない。ユキノは曖昧に笑って、ラフから視線を外した。ふと見た窓にはカーテンがひかれていて、外の様子を見る事はできなかった。 「…誕生日…」 「え?」 来なければ良いのに。続く言葉は、ラフがいたのだと思い出して止めた。もうどうせ、自分は長くはないだろう。そうしたらきっと、カレルが魂を食べてくれるのだ。誕生日の夜、初夜を迎える前に、死んでしまった方が幸せかもしれないと、ユキノは真剣に考えていた。 † BACK INDEX NEXT † |