長くても 短くても 小さくても 大きくても それにはそれぞれに価値があって 見知らぬ誰かのモノじゃない きっと 全部が 誰かの掛け替えのないモノで 言葉にならない程 大切なモノなの - 魂の行方 - 朝から食欲がなく、ユキノは食事のほとんどを残したままごちそうさまをした。今日は祖母も伯母も、どこかそわそわと落ち着きがない。理由はわかっていた。今日、ユキノの婚約者がやってくるのだ。 「熱が下がってよかったわね。ユキノ、着替えてなさい」 ユキノは言われるまま、伯母の用意してくれたワンピースに着替えた。この村では、女の方に選択権がある。という事になってはいる。けれどユキノの様に、家の都合で相手が最初から決められている事は珍しくなかった。割り切っているはずの頭は、今朝からずっともやもやしていた。ユキノは億劫な表情のまま、相手の男が来るのだという客室に向かった。 「もうすぐいらっしゃるからね」 相手の男は、祖母の友人の孫という事を聞いていた。年はユキノより少し上らしい。真面目で誠実な青年なのだと、祖母は話していた。そうしている間に、ドアのノックが聞こえた。祖母が返事をすると、扉が開き、伯母と、その後ろに付き添いであろうおばあちゃん、そして更に後ろから聞き及んだ通り真面目そうな青年が入ってきた。丸い眼鏡をかけ、少し茶色い髪の毛を綺麗に揃えて切っている。伯母は案内係だったのか、彼らを部屋に通すと部屋を出て行ってしまった。 「あぁ、よくいらっしゃいました」 祖母はおばあちゃんに駆け寄り、その手をぎゅっと握った。そして後ろにいた青年にも同じように挨拶をする。二、三言葉を掛け合うと、ユキノの座っているソファの前に三人が並ぶようにやってきた。ユキノは自分が注目を浴びていることに戸惑いながらも、立ち上がって礼をした。 「初めまして。ユキノ=ヴィセンティーニです」 顔を上げて彼を見ると、青年は温和そうな微笑みをたたえながらユキノに手をさしだした。 「初めまして。ラフ=アモルーゾと申します」 にっこりと差し出された手を、まさか握らないわけにも行かない。ユキノがその手をそっと取ると、ラフは力強く握手をした。四人がソファに落ち着くと、付添人同士のお喋りが始まった。 「本当に可愛らしいお嬢さんで。さすがサラさんのお孫さん」 「まぁ。ありがとうございます。ラフさんも随分大きくなって。良い男に育っちゃって私の方が緊張してしまいますわね」 ラフはニコラと名乗ったおばあちゃんと、ユキノの祖母との話に時々入ったりして、会話に笑いを起こしていた。会話に入れずに黙ってばかりのユキノにも話を振ってくれるが、ユキノは曖昧に笑うだけだった。 「ちょっとラフ、サラさんと二人で話したいからユキノさんと席を外してくれる?」 ニコラがそういうと、あぁ、とラフが立ち上がり、ユキノにそれでは行こうか、と手を差し出した。とても自然な動作だったので、またユキノは彼の手を取らないわけに行かなくなる。祖母達のいる部屋を出て少し歩くと、伯母と会った。ラフがどこに行ったらいいのかと尋ねると、伯母はユキノの部屋に行ってはどうかと提案をした。ユキノは少し嫌だったけれれど、全ては打ち合わせされていたかのように、伯母は自然にユキノの部屋へと案内を始める。手を引かれているユキノはそれについていくしかなかった。 † BACK INDEX NEXT † |