次の日、ユキノは熱を出した。最近出していなかったのに、これでまた一週間は外出を禁じられてしまうなと、くらくらする頭で考えた。薬師も帰り、部屋にはまたユキノ一人きりだった。祖母も伯母も、仕事が忙しくてユキノに構っている暇はない。それはわかっている事だが、寂しい気持ちは抑えられない。



「ユキノ。お前、外に出ることないわけ?」



 うとうとと寝そうになっていたユキノは、近くで聞こえた男の声にはっとした。刺々しい言葉なのに、不思議と聞いていたくなるような甘い音を持っていた。朝の光でみると彼の顔はいっそう輝いて見える。昨日はっきりとわからなかった瞳の色もはっきりと見て取れた。蒼い右目と金色の左目をもつ美しい人は、ユキノのベッドのわき、顔のすぐちかくまでやってきてまた腕を組んだ。熱のために喋ることもままならず、ぜいぜいと息をもらすユキノを見て、青年はなるほどと口を開いた。



「…あぁ。弱いわけね」



 もうちょっと、言い方というものがあると思う。けれど不思議と、怒りは抱かなかった。



「あなた…は」

「? あぁ、名乗ってなかったんだっけ? なんか、似すぎてて生き返ったのかと思ってたのかもな。俺はカレル。見たのは初めて? 悪魔」



 息が苦しかったので、こくりと首だけで返事をした。悪魔という生き物はもっと、絵本で見たように醜いものなのだと思っていた。こんなに綺麗な悪魔がいるなんて。ユキノはカレルと名乗った悪魔から目を離すことができずにずっと見つめてしまっていた。すると、カレルの顔が近づいて来る。



「……え…?」

「そんなに、俺の顔が好き?」



 ニタリと笑うカレルに言われ、赤くなって顔を背けた。そんなユキノの態度が面白かったのか、カレルは長い指をユキノの頬にあてて自分の方を向かせた。



「性格は、お前の方がちょっと可愛いよ」



 そんな事を言いながら、ユキノの頬にちゅ、と軽いリップ音を響かせてキスをする。顔を抑えられたまま、逃げられないユキノは混乱してしまって、ただ目を泳がせるしかなかった。



「じゃぁまたな」



 悪魔はユキノを離すと、一瞬で窓まで移動していた。そして窓を開け、消えてしまった。




-†-†-†-




 懐かしいブロンドの髪。キアラよりも少し幼いが、その瞳は彼女と同じくアーモンド型で、綺麗なグリーンをしていた。赤ん坊が生まれてから、時々悪魔の森から出て来た時、遠くから見ることはあっても今まで何故か近くに寄ろうとは思わなかった。カレルはおもむろに、手の平にエネルギーを集め始めた。以前のものとは比べ物にならない、限界を知らないのではと思う程のエネルギー。これは十二年前、彼女に与えられたものだ。彼女の魂は、彼に莫大な力を与えてくれた。悪魔の里で、彼程の力を持つ者が他にどれだけいるだろうか。力が全てを決める魔の世界で、彼をサタンにと推す声も、最近では囁かれるようになった。カレルにしたらどうでも良い話だが、この溢れる様なエネルギーはとても心地がいい。



「必ず育つ。そう言ったよなぁ?」



 カレルは集めたエネルギーを空に放った。真上にあった雲が裂け、森の一角に光が差す。死の間際、彼女が言った言葉をカレルは忘れていない。言葉通り、キアラの娘の魂は、綺麗に育っているようだった。



「もう、すぐかな」



 カレルは上唇を嘗めた。ユキノの魂は、もううっすらとその姿を現している。つまり、彼女の死期が近づいているのだ。胎児の時に死にかけていた事を思えば、今までよく生きたと褒めてもいいくらいだ。カレルはにやける口元を抑えられなかった。あんなに美味い魂を、もうすぐまた食べられるのかと思うと。






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