地元に帰ってきた。
新幹線で数時間、更にタクシーで数十分。久々の名古屋の街並みを横目にスタジオに入った。今日は那月と一緒に深夜の番組の収録だった。
深夜のローカル番組ともなれば収録は4本撮り5本撮りが当たり前で全て撮り終わる頃には辺りはすっかり真っ暗だった。
「せっかく来たのに残念ですね」
予定時刻を大幅に過ぎたわけでもないのだが時間はあっという間で気付けば帰りの新幹線まで30分程だった。
スタジオから駅へと戻る車内で途中に見えたイルミネーションにもあまりテンションが上がらない。
「駅の近くに名所とかあるんですか?」
「名所?」
「はい。食べ物は休憩時間に色々頂いたので」
美味しかったですね、と笑う那月はいつもと変わらない様子だった。
「んー…それっぽいのはあるけど名所ってわけじゃねーしなあ…」
名所と言われてもその土地に馴染んだ人間にとってはどれも普通のものである。名駅周辺ともなるとそれも限られていて唯一浮かんだのは幼少時の鮮明な記憶に残っているものだった。
「人形なんだけどさ、」
「お人形さんですか?」
「いや、多分那月の想像してる人形とは全然違うと思うぞ」
人形と聞いて一段と明るい表情を見せる那月が想像するのは恐らく那月の理想的な小さくて可愛いものなのだろう。
タクシーは駅の西側である太閤通口側に着いた。目的のものは逆の桜通口側にあるため駅構内を突っ切る事にした。
「翔ちゃん!お土産買いましょう!」
途中、土産物が売っているところを見付ければ寄って行って物色し明らかに自分への土産であろうご当地ピヨちゃんグッズや御菓子を購入していた。
俺はその合間に那月を見失わない距離にある店で新幹線で食べられるような軽食を適当に買っておいた。
「もういいか?」
「はい!」
暫く歩けば桜通口に抜ける。名前もよく知らないモニュメントのようなものもそれっぽいといえばそれっぽいのだがやはりパッと見て目を惹くのはそんなものよりこれだろう。通りを歩けば何よりも目立つから近付かなくても分かる。
「あれだ」
指を差せば辿るようにしなくても目の前に現れるのは何メートルもあるマネキンのナナちゃん人形だ。
「とっても素敵なお洋服ですね!」
日替わりだったか何だったかこの何メートルもある人形はころころと服が変わる。ドラゴンズ仕様だったり何かよく分からない時もあるが今回はどうやら那月好みの可愛らしい服を着ていた。俺が初めて見た時は確か麦わら帽子を被って夏らしい格好をしていた気がする。服が変わっても迫力は変わらないなと思った。
「翔ちゃん写真!写真撮りましょう!」
「ちょ、恥ずかしいから騒ぐな!」
那月は携帯電話を無理矢理俺に押し付けてナナちゃんに近付けるだけ近付いた。
ピースをして待ち構える那月に仕方なくカメラを向けシャッターボタンを押し、撮れたぞと携帯を差し出し自分のいるところまで那月が来るのを待つ。
「ほら早くしねえともう時間だぞ」
翔ちゃんも撮ってあげます、と今にも言い出しそうな那月を遮るようにそう言い放って改札に戻る為に数歩足を進めた。
次に帰ってくる頃にはもう少し成長していたい
2013/1/17
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