「Tシャツ買ってきてくれる?2、3枚」
食材を買いに出た波江に臨也は電話でそう伝えた。臨也は食料ではなく衣料を頼んだのだが波江はそれを了承した。
それからかれこれ1時間。
戻ってきた波江はTシャツの入った袋を臨也に渡して食材を冷蔵庫に入れるためキッチンに向かった。
臨也は波江から受け取った袋の中身を確認する。そこには黒い無地のTシャツが入っていた。色の指定も柄の指定もサイズや形の指定もしていなかったがそれは臨也の想像通りだった。
「さすが波江さん!想像通りだ」
吹き抜けの空間に響く声に波江は手を止め振り返った。臨也は流石、と言っていたがその言い回しと表情は嘲笑のようなものである。
「そう。期待に応えられなくて残念ね」
普通なら想像通りで良かった、嬉しいということになるが臨也の場合は違うのだ。
例えばこれが白のTシャツならば臨也は意外だと笑うかもしれないがそれも想定内だろう。
しかし波江の性格を考えればそうなることはないと想像出来る。波江は、白を選んでやったら臨也はどう思うか、なんて考えるような人間ではない。そんな面倒なことはしない。
しかし一つ、臨也の想像の範囲にはなかったものがあった。
袋についていた飾りだ。受け取った時には気付かなかったそれはリボンを一捻りしてシールでとめただけの簡易なものだがシールにはHappy Birthdayと印字されている。
「期待通りかと言われれば期待外れだけれどこれはこれで面白いと思うよ?」
「言っておくけどそれは、」
「プレゼント用ですか?って聞かれたから受け入れただけ、でしょ?」
被せるように先に真相を口にする臨也に波江は嫌悪のこもった視線で一瞥した。
「部下のちょっとした気遣いみたいなものよ」
「そこに情なんてものはないだろう?」
「同情はあるわ」
一瞬合った波江の刺さるような視線はすぐに冷蔵庫に向いて臨也はそれに何を返すこともなく仕事に戻った。


情報屋への情

2014/05/04
リアタイログ




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