「虎徹くん」

痛い。痛かった。
あれ?何が起きたんだ?
ともえ…?

「どうしてこんなところにいるの?」
「いや、えっと、友恵ちゃんそれ俺のセリフ…」

どうしたものかと慌てふためく俺に落ち着いてと友恵が薄く笑う。

今の状態への困惑の後に押し寄せるのは逢えて嬉しいという喜びだ。
今まで一方的に話したことはあったけど会話が成立したことはなかった。
こんなふうにまた、笑いあって。

「久しぶり。元気だったか?」
「久しぶりって感じしないなあ。毎日見てるもの」
そういう虎徹くんは最近元気ないね、と友恵が俺の頭を撫でる。

「痩せたね」
「お互い様だろ」
「忙しいのはいいことだけど一食くらい抜いたって大丈夫ーなんて思ってちゃダメよ?後から後悔するのは自分なんだからね」
「いやでもそれくらい…」
言い掛けてやめた。病気になっちゃったらどうするの?そう語っているような気がする目から視線を逸らす。

「チャーハンばっかり食べてちゃ栄養偏っちゃうでしょ」
「チャーハンばっかりじゃねえよ!ハンバーガーとか、パーティー会場の料理とか」
「一緒じゃない」
相変わらずね、と昔を懐かしむように苦笑した。


「そういえば虎徹くん、この前私の写真倒したでしょ?」
オリエンタルタウンにある実家に帰った時のことだ。
持ち上げて見た写真立てを戻す時にバランスが悪くて倒れてしまった。
「あ、いやわざとじゃねえよ!?」
「私のこと嫌いになっちゃった?他に素敵な人でもいた?」
「な!んなわけないだろ!」
「じゃあ、私のこと好き?」
「そりゃあ!もちろん、す、好き…だ…」
「照れてる」
「うるせっ」
「私も好きよ」
きれいに笑う友恵を抱き締めて、ああ本当に久しぶりだと幸せを噛み締めた。


そうだまだ話したいことがたくさんあるんだ。

楓のふとした行動とか表情がお前に似てきたんだって言ったら友恵は、虎徹くんに似なくて良かったね、なんておどけてみせた。
「俺に似てるところもあるんだぞ」
「例えば?」
「えーっと…」
「ないの?」

「あ!そうだ!楓、能力に目醒めたんだよ!」
…あれ?何か忘れてる?
いや分かってる。分かってるんだ。
でもあと少しだけ、友恵と…
「ねえ、」

―この娘の命はないぞ

何かを言い掛けた友恵の優しい声とは別の声が薄く、でもはっきりと聞こえる。
「楓!?」
「ほら、早く行かなきゃ」
「でも…」
「約束、守ってよ」
どんな時でもヒーローでいて、と約束した時の死を覚悟していながらそれを隠して強い瞳で告げた表情が重なる。
「…ああ」
薄れゆく友恵の姿と共に覚醒した意識の端に映ったのは捕らわれた楓の姿だった。



拳を奮うまであと数秒

2012/11/22



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