※友達以上恋人未満
正沙前提
正臣と沙樹が結婚コンコン。
沙樹がドレスに着替えている間、暇を持て余した正臣は親族控え室に来ていた。
しかし肝心の親族はまだ居らず、さてどうするべきかと室内をぐるりと一周歩いてみて踵を返そうとした時だ。
響いたノックは両親の到着を告げるものだろうか。
返事をしてみれば、そこにはいつもとは違う、かちっとしたTPOに沿ったスーツを身に纏った千景がいた。
「よう」
「…何しに来たんすか。つーかよく入って来れましたね。ここどこだか分かってます?」
「分かってる分かってる。親族の控え室だろ?」
「分かってて入って来たのかよ」
「いやさ、式中にちょっと待ったー!とかさすがに出来ねえから人目を忍んできたわけよ」
「…バカだな」
正臣は呆れながら側にあったソファーに沈んだ。
「しっかし普通花婿の誕生日にするかね?」
千景は喋りながらジャケットのポケットに手を入れた。
「ジューンブライドにするならついでだし誕生日にしようって沙樹が」
「ほい、プレゼント」
そう言って千景がポケットからするりと出したのは両手に乗るサイズの長方形の箱だった。
「指輪はまずいだろうからそれにした」
開けてみれば、そこにはよくある小振りの白い石が真ん中についたネックレス。恐らく誕生石であるムーンストーンだろう。六月の誕生石はもう一つ、パールがあるのだが、冠婚葬祭だからとそちらでないあたりが千景らしい。
「つけろってことか」
「どうせ見えないからお前の自由だけどな」
「…じゃあとりあえずつけてください」
せっかくくれたんだからつけているところを見せなきゃ意味がない、と正臣はネックレスを千景に突き出した。
それを千景が受け取ったのを見て正臣はソファの上で正座をするように千景に背を向けた。
数秒して、出来た、と離れた千景に向き直れば千景は正臣を凝視していた。
「なんすか」
「やっぱ違和感あるな、それ」
それ。千景の目線からして服のことだろうと正臣も同じように服を見る。沙樹のドレスに合わせたタキシードだ。
「似合ってないって言いたいんすか」
「いやいや。普通にかっけーよ」
ジロジロと舐め回すように見る千景に耐えかねて正臣はその時間をお終いにしようと口を開く。
「…そろそろ親来ますよ」
「マジか」
「多分」
「そっかー。じゃあ、最後に一つ」
歯を見せずに笑顔を浮かべた千景はそのまま正臣に一歩二歩と歩み寄り、唇を寄せ、口づけた。
「はは、すげー背徳感」
「だったらやめろよ」
「ジャケット汚していい?」
「どこまでする気だよ」
「冗談。じゃ、本当にそろそろ行くわ」
そう言って千景は、ひらひらと手を振って、あっという間に姿を消した。
「…ホントバカだなあんた」
フライング・ウェディングキス
2014/06/19
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