ラジオの生放送を終えたのは午前三時だった。
ラジオだからとすっぴんで臨むなんてことはしないから帰宅してすぐ就寝は出来ない。
一度男の格好のまま女装の時の口調で喋った事もあるがいまいち調子が出なかった。深夜ということもあったのかもしれないが頭と睫毛に違和感を覚えるくらいでないとダメらしい。

ラジオを終えたら一度家に帰ってメイクを落としてシャワーを浴びる。そして髪を乾かす余裕もなくウィッグを片手に家を出てドラマの早朝ロケに参加した。

ロケが終わったのは七時。
次の仕事があるのは夕方だから半日自由だ。
取り敢えず朝ご飯を食べたい。今日は数日前から何を食べるか決めている。
取り敢えずその前にコンビニに寄って事務所に向かった。


「あーあーこんなとこで寝ちゃって」
キャスター付きの椅子を三つ並べて寝ている様はアイドルというよりテレビマンだった。
「龍也ー」
せめてソファで寝ればいいのに、と思いながら事務仕事で硬くなっているだろう肩を揺する。
「ん……なんだよ…」
「はいこれプレゼント」
重そうな瞼の前にコンビニの袋を突き出した。
「あ?」
ゆっくりとした動作で袋を掴んだ龍也は中を覗いて微妙な顔をした。
中身は栄養ドリンクだ。
「…珍しく気が利くな」
「珍しくって何よ!」
「ほらよ」
渡されたのは言わずもがな栄養ドリンクだ。飲めということだろうか。そんなコーヒーやお酒じゃあるまいし。
「お前も寝てねぇんだろ?」
「アタシは夕方ちょっと寝る時間あったから元気よ!」
あっそ、と栄養ドリンクを飲み干す龍也が再び仕事を始めてしまう前にと声を掛ける。
「それより、朝ごはん食べに行くから付き合いなさい!」
「朝飯?どこ?」
「日本の庶民的な家庭の再現VTRの朝食シーンでよく出てくるアレの専門店」
「は?」
よく出てくるとは言ったが最近はあまり見ない気がする。
「外人さんは苦手な人多いわよね」
「…?だからどこだよ」
「世田谷よ」
「世田谷?」
「いいから早く準備して!」
何食べに行くつもりだ、と聞かれる前に椅子に座ったままの龍也の腕を引いた。
真っ正面からプレゼントを渡したところで嬉しそうな顔をしてくれないということは今までの数年で分かったことだ。だからきっとこれくらいささやかな方がいい。朝食に龍也の好物を奢るくらいが。それでも向けられる表情はきっと笑顔ではないだろうけれど。



驚いた顔くらいはしてくれるわよね?

2014/05/15



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