「これ」
「もう出来たのか」

また一からやっていきたい、曲を作ってほしいとコージに告げてから二日が経った頃、連絡を受け仕事終わりに指定された公園に赴いた。昔よく利用していた公園だ。
曲のイメージとかコンセプトの相談だろうと思っていたのだが既にデモが出来たということだったらしい。

クリアファイルから取り出されたそれを受け取って少しだけ目を通す。少し遅れてイヤホンが差し出されそれを装着すればタイミングよく再生ボタンが押された。
静かに始まった曲はすぐに激しくなりメロに入る。ファンの子が原キーでは歌えないくらいには低めの音程。ヒロの声が一番生きるように作ったんだ、と昔に聞いた言葉は今も変わらず歌い手の個性を引き出す音楽を作っていた。
耳ばかりに気をとられてはいけない。目で追う歌詞はラブソングだろうか。誰かが誰かを想う気持ちが溢れている。しかしどこかで耳にした言葉ばかりが並んでいて少々インパクトに欠ける。
「抽象的でありきたりすぎる」
「ダメかな」
「ダメだな」
「じゃあこっち」
「まだあるのか」
先程見た物と交換するように別の紙を手にし目をやる。
一つ目とは打って変わってこれは具体的だった。俺のの性格や過去について書かれていた。
「何これ?自己紹介ソング?」
「前にカヅキに書いた曲はヒロに「向けて」だったから今回はヒロに「ついて」書いたんだ。一応さっきのもそうだったんだけど…」
「…もう一回それ見せて」
再び手元に戻ってきた一枚目は確かにさっきと同じなのに全然違って見えた。
コージは俺について書いたと言っていたが正しくはコージから見た俺について、コージが思う速水ヒロという存在が書かれていた。
コージはこんな風に思っていたのかと分かってしまうとそれはまるで手紙のような錯覚がして返事を返さなければいけない気がした。
「…こっちがA面で二つ目の方がB面、だな。あとこれ一つ目の方、もう一つ別のアレンジも欲しいんだけど」
「どういうこと?」
「アンサーソングとして3曲目に入れたいんだよ。自分で詞をつけて」
「…そうか」
コージは驚いたように目を見開いてそれから少し遅れて呟き、微笑んだ。
唇が描いた弧の意味は分からなかったけれどそれは多分、俺と同じ気持ちを持っているはずだ。そう信じたい。一緒に曲を作る事を嬉しく思っているのだと。



君と奏でるセレナーデ

2014/03/01



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