レン。少し強めの口調でそう呼ばれて振り向けば翔がそれを押し付けてきた。
それはどう見ても所謂チョコレートで箱に刻まれた文字は有名なチョコレートメーカーのものだった。
「どういうつもりかな?」
昨日、明日はバレンタインだななんて話をした。チョコレートが苦手な自分にとってはあまり嬉しくない日だと言っていたのだが。
「オレが苦手なの知ってるだろ?」
「女子からのプレゼントを避けるためだろ」
確かに昔は食べれたし嬉しかったのだがある時から苦手だと嘘をついていた。でもその嘘はいつの間にか真実になっていて今は本当に苦手なのだ。
「嫌がらせかな?」
「そうかもな」
これもやる、と突き出されたそれもまた同じような包みをしていた。
「こっちは誕生日プレゼントな」
「それはどうも」
普段ならそこでプレゼントを開けるが中身は分かり切っているからやめておいた。
「食べてくれないんだな」
「食べてほしい?」
「そりゃあ…」
「おチビちゃんが祝福の言葉と愛の言葉を言ってくれたら食べるよ」
まだ言って貰ってないからね、と言えば少し躊躇ってから口を開いた。
「…おめでとう」
「うん」
距離を詰めたおチビちゃんはちょっとしゃがめと袖を引っ張った。位置的に耳元で言ってくれるのかと思えば読みは外れて唇が触れ合った。
「これでいいだろ…」
ここまでしてチョコを食べてほしい理由が何なのか分からなかったが約束してしまったからには食べなければならない。
「じゃあ、おチビちゃんがおすすめのヤツ、口に入れてくれる?」
箱を差し出せば今まで強気だった翔が控えめに申し訳無さそうに呟いた。
「え、いや…そんな無理しなくてもいいんだけどよ…」
「こんなに愛が詰まってるんだ。捨てるわけにもいかないだろう?」
「別に手作りってわけじゃねーし、いらないならオレが食うから」
「じゃあどうしてチョコをくれたのかな?」
笑うなよ、と前置きをされたがそれはとんでもない理由なのだろうか。
「…美味しいナポリタンの店とか知らねーし何あげたらいいか分かんなかったんだよ」
悪いか!と照れ隠しのように声を上げた。好物は何もナポリタンだけではないことくらい一緒にいたら分かると思っていたのだがまさか苦手なものを渡されるとは思わなかった。
「そうか。じゃあ、プレゼントお願いしてもいいかい?」
からかえばまたそっぽを向かれてしまうだろうと精一杯優しく頭を撫でた。
「なんだよ」
「料理本、と材料」
「は?」
「料理、作ってくれる?」
「そんなんでいいのか?」
「好きな子の手料理ほど嬉しいものはないよ」
「失敗しても食うのか?」
「もちろん」
「何がいい?」
「じゃあ、ナポリタンで」
「結局かよ」
「おにぎりとかでもいいけど?」
「パスタくらい余裕で作れるってーの」
ほら行くぞ、と手を引っ張って歩きだす翔はなんだか楽しそうだった。どこ行くの?と歩幅を合わせれば本屋に決まってんだろと手を勢い良く振り離された。
甘くて苦いプレゼント
2013/2/14
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